第2回シンポジウムで徹底討論

【2008. 4月 03日】

  第2回シンポジウムで徹底討論

         -医療崩壊の打開策探る-

 3年前まで東毛地域は群馬でも周産期医療が充実した地区だった。それが新臨床研修制度を期に私立大学の派遣医師引きあげで、あれよあれよという間に10人の産婦人科医が病院から撤退、県立がんセンターでは婦人科を閉鎖、NICUのある総合太田病院もこの春から分娩をやめた。今では、おなかの子が双子だったら市内では出産できない状況にまで陥っている。
 群馬の医療崩壊は東毛から始まる…と警鐘を鳴らす太田のM先生。恵まれていた環境があだとなって、市民も行政も危機感をもてずにいたことが医療崩壊を加速させたと語った。
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 病院勤務医と開業医が互いに現状を認識し、医療崩壊から抜け出す方法を考えようとシンポジウム「ここまできた医療崩壊」を3月13日に開催した。1月のシンポに続く第2弾で、医師、歯科医師ら30人が「いま何が必要か」をテーマに話し合った。
 はじめに3人のコメンテーターが前回のシンポジウムをまとめる意味で問題提起。続いて医師不足と労働環境、病診連携、救急患者の受け入れ体制、医師の集約化、医療訴訟等についてさまざまな状況が語られ、それぞれの医療現場の問題が次第に明らかに。医師の絶対数不足と、それを解消するためにも医療費総枠を増やすことが必要との認識を新たにした。(研究部)

【コメンテーター】
桐生厚生総合病院副院長 竹内東光先生(小児科)
利根中央病院副院長 糸賀俊一先生(産婦人科)
公立藤岡総合病院小児科部長 五十嵐恒雄先生(小児科)
 *座長 柳川洋子副会長

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【問題提起】   

 病院産科閉鎖の影響
      糸賀俊一先生

 産婦人科がいま抱えている問題は、救急医療・NICUの絶対的な不足、分娩取扱い医療機関の急激な減少、医療訴訟、医師不足の4つに絞られる。分娩を扱う医療機関は12年前に比べて3割以上減った。福島県立大野病院の医師逮捕以降だけでも100以上の施設が分娩をやめている。
 県内では相次ぐ2次病院の産科閉鎖の影響が出てきた。東毛の館林厚生、総合太田、北毛では原町日赤、渋川国立が分娩をやめた。そのため伊勢崎市民病院や桐生厚生病院に分娩希望者が集中し、それらの病院では医師たちがいま大変な思いをしている。
 病院に勤務する産婦人科医はこの数年で10%以上減少した。産婦人科の医師を増やすことが焦眉の課題である。

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 医師不足の悪循環
      竹内東光先生

 GDPあたりの日本の医療費は先進諸国の中でもかなり低い。また1980年を100とした場合、12年後の1992年の人件費は143.2、消費者物価は130.2、これに比べ診療報酬は104.7に留まっている。二つの資料から見ても日本の医療費は決して多くない。
 医師数ではどうか。人口10万人あたりの医師数はOECD平均が310人に対し、日本は200人。つまり3人でやる仕事を日本では2人でこなしている。医療費亡国論が発表された時点でも医師不足は明らかだった。ちなみに桐生厚生総合病院と同規模のボストンの病院をベッドあたりで比べてみると、ボストンは医師が8倍、看護師が2.5倍、職員数は5倍だった。
 都市も地方も医師不足である。桐生厚生の小児科医は24時間連続勤務が月平均6回あるが、医労連の調べでは勤務医の5割が「職場を辞めたい」と考えている。医師不足が過重労働を生み、それに耐えられなくなった医師が病院を辞めていく。

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 小児科だけではない
     五十嵐恒雄先生

 西毛地域の医療圏は利根西の広い地域にわたり、人口60万人を抱えている。小児救急において、平日の準夜帯では少しずつ連携が取れるようになってきたが、日曜・休日の救急体制は以前と変わらない。特にハードなのがいわゆるハッピーマンデーを含む土・日・月曜の救急だ。
 小児救急はほとんどが一次レベルではあるが、1人に数分しか時間が取れない中で二次、三次を選ぶ作業をしなければならない。しかも普段診ていない患者が多いため、かなり危険な作業をしていることになる。しかし救急に関しては病院中が大変なのであって、特に小児科だけが大変なわけではない。
 県内の小児救急は群馬大学の小児科が頼りである。群大も三次医療を担い、次世代医師の教育をしてゆくには人手不足で、今年も5、6人入局したが、戦力となっていた医師が新人の数を上回って辞めている。
 医療全体が危ういと感じている。まさに倒産寸前の会社のようなもので、つぶれるときは、みんな一緒につぶれる危険も感じる。

■群馬保険医新聞2008年4月号