不当求刑に断固抗議する!
-福島県立大野病院産婦死亡で禁固一年-
理事 今井昭満
3月21日、大野病院の妊婦出血死に対し、担当の加藤医師に禁固一年、罰金10万円の論告求刑がなされました。この報に接し、一産婦人科医師として唖然、呆然とし、一瞬言葉を失いましたが、直後に激しい怒りがこみあげるのを禁じえませんでした。
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すでに諸先生にも広く知られているとおり、この件は2004年12月に前置癒着胎盤の妊婦が帝王切開を受けた際に、懸命の治療も及ばず、出血多量で死亡するに至ったことが医師の過失によるものであるとして、06年2月に逮捕、起訴されたものです。
この逮捕は医師、とりわけメスを執る外科系医師に衝撃を与え、明日は自分の身におこるかもしれないという不安が広がりました。その結果として、産科医不足が深刻な社会問題となっているなかで、さらなる産科医の分娩からの離脱を招き、産科医不足を加速させる結果となりました。また、全国の人々、とりわけ妊婦さんや、これから出産を考えている女性にも大きな不安を抱かせることになりました。
群馬県保険医協会でもいち早く、06年4月、小板橋会長名で福島県警察本部長あてに抗議文を送付するとともに、同じく4月号群馬保険医新聞でも取り上げ論説していますので、ぜひもう一度ご覧いただきたいと思います。
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いうまでもなく出産は人の命を次世代に引きつぐ崇高な行為であり、その生命が引きつがれて、私たちは今この世に生きているのです。同時に、この命の引きつぎである分娩は、母体にとっても生まれてくる子どもにとっても命がけであり、いかなる医療行為が迅速かつ適切におこなわれても、死という不幸な転帰を迎えることも起こりうるのが事実です。
誤解してほしくないのは、だからといって母児の安全に対し医師に責任がないわけではありません。現に日本の産科医療の現場では、医師も医療スタッフも日々真剣に取り組んでおり、その結果、現在の日本は世界で妊産婦死亡率の最も低い国になりました。しかしながら妊産婦死亡をゼロにできない出産もまた存在するということです。
今回の妊婦死亡においても、医師は自分のできる最善を尽くし、救命のために必死でがんばったのです。私自身、数多くの出産に立ちあったなかで、患者さんの死亡が頭をよぎり、足はふるえ、まさに足が地につかないような状況に立ち至ったことは一度や二度ではありません。
なんとかして患者さんを救命しなければと、スタッフを叱咤激励し、できることはなんでも実行し、電話をかけまくり、応援の医師にかけつけていただいたり、ときには救急病院に転送して救命できたこともありました。加藤医師もまったく同じ思いだったはずです。
結果として患者さんを救命できなかったときの心情はいかばかりかと、心が痛みます。もちろん、突然愛する家族を失ったご家族の驚きと混乱、その悲しみも察するに余りあります。
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加藤医師は、検察の主張する「執刀医の判断ミスと処置が結果的に患者の死を招き、しかも医療事故として警察に届出が出されていなかった義務違反」で、禁固1年を求刑されました。
逮捕当時より全国の医師、とりわけ産婦人科医、日本産婦人科学会、日本産婦人科医会では、逮捕は不当であり、不起訴への運動と同医師に対する支援を続けてきました。無罪求刑を信じていた私たち医師にとって、この求刑はまさに青天の霹靂でした。
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患者さんの不幸な転帰=医師の過失という図式は、この際なんとしても糺さなければなりません。
時間がありません。とりあえず、全国の産科医一人ひとり、産婦人科医会、産婦人科学会、その他、関連諸団体は早急に行動を起こし、検察に抗議し、加藤医師の無罪をかちとらなければなりません。5月16日弁護側の最終弁論で結審、夏には判決が言い渡される見通しです。
これは日本の産科医療を守り、全ての妊婦さんが安心して出産にのぞむことができるための闘いです。とりいそぎ強い抗議を示すため、この一文をしたためました。
■群馬保険医新聞2008年4月