【老いの周辺】混乱招いた後期高齢者医療制度

【2008. 5月 26日】

  混乱招いた後期高齢者医療制度

                           前橋市 松澤一夫

 75歳以上を対象とする後期高齢者医療制度(長寿医療制度)が4月より始まりました。野党4党の反対にもかかわらず、政府は十分な議論も尽くさないまま見切り発車しました。そのため高齢者周辺や医療現場でさまざまな混乱が生じています。今回は、この制度開始以来きわめて短期間に明らかになった問題点を検討し、高齢者医療制度のありかたを考えます。

 ●高齢者の不安

 高齢者にとっての混乱は、この制度の開始が知らされていなかったり、内容が複雑で理解できなかったことが原因と思われます。また、保険証が届かず受診に困った人もいました。さらに、年金からの保険料の天引きの誤り(多く引かれたり、少なかったり)もありました。
 これらはいずれも行政の責任です。制度を作った厚労省、中心となって運営する保険者の広域連合、市区町村の連携が悪かったからです。
 高齢者の不安は現在も続いています。この不安は保険料の額、一部負担金の割合、受けられる医療の内容等がこれまでと比べてどうなるかという点に集約されています。2年も前に決定された大きな制度変更ですので、開始前の早い時期に保険証と一緒に各個人の保険料額等の事項についての説明文を送付すべきでした。今からでも遅くはないので高齢者の不安を払拭してもらいたいものです。
 厚労省は負担と給付はこれまでと変わらないと説明しています。しかし、数年後には保険料は値上げされ、おそらく医療の内容も制限されると思います。
 
 ●医療機関の反発

 医療機関にとって最大の混乱は後期高齢者診療料の件です。医療費抑制のため、高齢者であっても主病は一つの考えのもと、主治医を決め、月わずか6000円の報酬としています。
 通院している多くの高齢者は複数の病気を抱え、薬や時々の検査も必要で、医療機関はこの報酬ではとてもやっていけません。その上、ほかの医療機関へのアクセスも阻害されることになります。医学が進歩し専門性が強調される現在、より良い医療を求め複数の医療機関を受診する高齢者は大勢います。
 すでに、いくつかの県では医師会や保険医協会レベルでこの診療料に反対を表明しています。群馬県でもこれまでどおり出来高払いを選択するように県医師会、保険医協会が会員に呼びかけています。
 
 ●制度揺るがす公費投入

 この制度を運営する要である広域連合にとっても頭の痛い問題があります。給付財源の一割を占める後期高齢者の保険料は各地域の老人医療費により決定される仕組みになっています。負担を軽くしたければ医療費の抑制の努力が必要になります。
 老人医療費の高い東京都の後期高齢者の保険料はこれまで加入していた国民保険よりも計算上はるかに高くなります。そのギャップをうめるため、自治体が約17億円の公費を投入し、全国最低の保険料を実現しました。他の地域にも同様な動きが見られます。この事実は制度の根幹を揺るがすことになります。
 
 ●社会保障として

 制度開始一か月という短期間で多くのところで問題が噴出しています。前号のこの欄で湯浅先生も指摘していますように、医療費適正化の下での医療費削減政策に大部分の原因があると思われます。
 このままこの制度を存続させますと、高齢者の負担はますます増大し耐えきれなくなると思われます。「金のきれめが命の終わり」になりかねません。
 後期高齢者という名が悪いという世間の声があるので長寿に政府は変えようとしました。世間の声は単に名称のことを言っているのではなくて、内容が悪いというメッセージがこめられていると考えるのが当然と思います。私は医療制度の名はどうであれ、内容を変えてほしかったです。
 高齢者、特に後期高齢者は病気にかかるリスクが高く、万が一に備える保険原理は働きにくくなります。そのため、国は公費による保障の理念で高齢者を支えるべきと日本医師会は昨年のグランドデザインで述べています。福祉先進国の北欧などではあたりまえのことです。政府はこれらの国の制度の良いところを見習うべきです。
 75歳の平均余命は長く見積もっても15年位です。これまで苦労しながら高度経済成長を支え税金も払ってきました。最後の数年間は誰もが病気に対するお金のことは考えずにゆったりと過ごしたいものです。
そのためには今回の後期高齢者医療制度にかわる、保障の理念にもとづく新たな制度が待ち望まれます。
(本欄座長、松沢医院)

■群馬保険医新聞 2008年5月