医療崩壊招いた低医療費政策と医療「改革」
日本福祉大・近藤克則教授が講演
5月25日(日)午後、協会では今年1月より行ってきた連続シンポジウム「ここまできた医療崩壊」の3回目として、日本福祉大教授・近藤克則先生を招き公開講演会を開催した。折しも後期高齢者医療制度に対する国民的な憤激がマスコミを賑わす中での開催で、会場には協会会員のほか高齢者団体の役員や公的病院管理者などの姿が目立った。
講師の近藤克則教授は2004年に著書「『医療費抑制の時代』を超えて」でいち早くわが国の医療崩壊の兆しに警鐘を鳴らしたことで名高い。また06年には衆議院予算委員会で医療制度「改革」がこのまま実施されれば日本の医療が歪んでしまうと参考人発言したことで知られている。
この日の講演では、この数年間に日本医療が崩壊状況の度をますます深めている事実を上げ、その原因が低医療費政策と医療制度「改革」にあるとし、その打開のための道筋について判りやすく語った。以下要旨。
◎米英どちらに学ぶのか
医療費の増大と財政赤字は先進諸国共通の悩みだ。どの国も医療費削減策を実施し医療環境の悪化を経験している。この打開策には両極端の二つのモデルがある。ひとつは米国型で、膨らむ医療費を自己負担を増やすことで効率化し節約しようとする方式。日本はこれに倣っている。もうひとつは英国型で、過去の低医療費政策による医療崩壊の反省から、国の公的資金を支出することで医療崩壊から脱却した経験がある。
現在、いずれの国も健康格差が拡大している。健康格差とは、低所得者ほど病気になる確率が高いという事実である。うつ病、白内障、認知症、転倒率、骨折などが富裕層に比べ貧困層ほど病気罹患率が高いことが調査され明らかになってきた。ゆえに米国型の自己負担強化の方法では、医療費を払えない低所得者は受診を抑制し重篤化してから受診して医療費を増大させる。
米国では入院費は1日100万円。医療費の未払いが増大している。支払い能力がない入院患者の遺棄を禁ずる法律もできたほどだ。未収金は公的病院への赤字補填など含め結局は財政負担となり、米国の医療費への財政負担は国際的にも高いものとなっている。
一方、英国では10年前に選挙公約に基づきブレア政権が医療費を1.5倍化、医師数も1.6倍化した。その際、所得差による健康の偏在、健康格差への対策のため財源は公費とした。
さらに増やした医療費により、過去から問題だった入院待機や手術待機の状態がどう改善したか分かる情報公開・説明責任の仕組みをつくり、国民との信頼関係を築いた。こうした経験をOECDの報告書は「自己負担を増やす方法では、公的支出を節約する可能性は少ない…」と報告している。
◎医療崩壊からの脱却
以上から、3点指摘したい。健康格差はわが国でも拡大している。医療費を増やす方向に政策転換する場合の財源は公的資金で賄うべきである。
二つめは医療供給側と国民との信頼関係。ある調査で自己負担を増やす米国型政策の支持者は患者よりも医師の方が多い。また患者との信頼関係を壊す医師の心ない発言は投書欄をみても枚挙に暇がない。誤解も多く医師は身勝手との認識が一般的であることを念頭におく必要がある。
三つめは医療の質を高めるシステムの構築。健康格差への対応、情報公開と説明責任などの方法はすでに国際的に確立している。こうした先進の経験を学び活用して医療崩壊からの脱却をはかるべきと考える。
■群馬保険医新聞 2008年6月