論壇
病院小児科は地域の太陽
―小児科集約化問題を考える
高崎中央病院院長 鈴木 隆
病院の小児科勤務医が減りつづけ、入院の受け入れや救急の二次病院の役割が果たせなくなっていることが日本中で問題になっています。群馬でも例外ではありません。小児科学会や厚労省は病院小児科の集約化によってこれを解決しようとしています。しかし、それで本当にうまくいくのか疑問です。
以下、この問題での私の考えを書いてみます。
●常勤小児科医の存在は大きい
地域の病院に小児科常勤医がいて、ある程度の入院を受け入れられる機能があることはとても大きな意義があります。そこで安心して子育てができるかどうかの決め手と言ってよいでしょう。各世代の家族みんなを診られるというのはその病院にとっても決定的に大事です。病院への信頼感が違います。
小児科医が一人いるだけで、その病院の医師全体の子どもへの医療レベルが上がります。病院に小児科医がまったくいないと、他の医師たちは子どもを診るのが怖くて完全にお断り状態になります。
小児科医が一人でもいると常に子どもの患者が身近にいますから、子どもがそれほど特殊でないことが分かります。なにかあれば小児科医に相談できますから、まったくお断り状態では無くなってきます。
実際、当院では内科医・外科医が熱性けいれん、喘息の時間外急患を診る力を持っています。これからは初期研修で小児科を必ず回ることになりますから、他の病院でもそういう条件はできてくるでしょう。
●ベテラン医師を大切に
中小病院の小児科医は疲れ果てているのか? 私の周りを見る限り、みなさんまだ大丈夫そうに見えますが。
常勤の部長はこれからも地域で頑張ろうと思っている人が多いと思います。それは長年の経験のなかでライフスタイルを作りあげ、求められるものとやれる事を上手く調和できているからです。しかしこれはその医師が現在の病院にいるからできることで、この地域のベテラン医師を移動させようとしたら大変なストレスになり破綻してしまうでしょう。
現在当院は西毛地区輪番に参加しています。富岡、藤岡、埼玉などから夜間に来て入院することもあります。でもやはり子どもの入院は家族の負担も大きく、翌日には地元の病院への転院を希望する家族がほとんどです。これが実態ですから、やはり集約化して入院機能を一箇所に集めるのは患者・家族にもすごく不便になると思います。
以上の理由から、どこをどう集約化するかなんていう話に時間やエネルギーを費やすのはやめて、群馬県で小児科常勤医のいる病院をこれ以上減らさないようにと、みんなで腹をすえることが大事だと思います。
●医師が展望をもてる政策を
今頑張っている医師たちをいかに支えるかが大事です。長期的に、短期的に。精神的に、物理的に…です。
未来への展望がない時、孤独感に包まれた時、それと過労状態になった時に頑張っていた医師がやめてしまうのだと思います。
国の政策の根本的な転換が欠かせません。医学部の入学定員を元にもどすことがようやく決まりそうです。必ず来年度には実行するととともに、どこの地域も医師が足りないのだから群馬大学をはじめこの間削減されていない大学も1~2割の定員増をすべきでしょう。すぐに効果はなくても医師たちに大きな励みになります。
診療科の医師配分など今後つめればよいでしょう。強制でなく、本来やりたい人を励ます仕組みをたくさん作ればいいと思います。
さらに医療福祉予算を画期的に増やし、特に病院全体の診療報酬を大幅に上げることです。小児科や産婦人科だけ上げてもだめです。高齢者からの診療報酬を減らされ、小児科だけ点数が上がったら病院の管理者は唯一収入増が見込める小児科にもっと稼いで欲しいと思います。まじめな小児科医がそれに応えようとしたら一層負担が増えてしまい逆効果です。
小児科に関しては患者数の季節変動が大きく、退院も早く、患者数が常に不安定なので、常勤小児科医がいること、地域救急事業に参加していること、小児科入院ベッドを持っていることに対して、まずそれだけで経営が成り立つくらいの診療報酬や補助金をつけてほしいと思います。これも緊急に必要なので、国がすぐ動かないなら、まず県で施策を始めて欲しいところです。
●出来ることから
医師会のみなさんが協力して病院医師を支えようと、一次救急体制の整備が進んでいます。完璧を追求する必要はないので、できるところから少しでも進めて、曜日・時間を増やしていただければそれだけ病院医師は助かります。
女性医師をはじめ、当直やフル勤務ができない医師に昼間の外来を半日でも一日でも手伝ってもらえるだけで常勤医が当直明け休みを取る保障がうまれます。女性医師に小さいお子さんがいたら、大騒ぎして時間かけてりっぱな保育所を作れなくても、ベビーシッターをその日に配置するくらいは行政レベルですぐできるのではないでしょうか。
とにかく関係者で協力し知恵を集めてがんばりたいものです。(小児科医)
■群馬保険医新聞2008年7月号