社会保障制度の負担と給付
前橋市 松澤一夫
近年、少子高齢化にともない年金、医療、介護、福祉などの社会保障費が増加しています。この費用の増加により国家財政が破綻するとして、政府は02年から毎年社会保障費を2200億円削減してきました。そのため医療崩壊や介護の貧困化が起こっています。さらに、集めた年金の無駄遣いも発覚して年金制度も揺らいでいます。ここでは社会保障制度について、負担と給付のありかたを中心に考えます。
●財源不足と制度改革
わが国の社会保障制度は時代とともに変遷してきました。この制度は1950年貧困の予防と救済を目的として始まりました。その後、経済成長とともに国民皆保険、皆年金に代表されるような国民全体の生活保障まで含まれるようになりました。1995年には、「広く国民に健やかで安心できる生活を保障することを基本理念とする」としています。
数年前からの急速な人口構成の変化によりわが国のさまざまな社会保障制度が時代にあわなくなり、制度改革のラッシュになっています。04年年金改革、5年介護保険制度改革、06年医療制度改革関連法などです。
いずれの改革も制度の改悪になっております。政府は財源不足を理由にして、自己負担を増加させ給付を減らしており、国民から不満の声が上がっています。後期高齢者医療制度では、国民、マスコミ、日本医師会、保団連、野党四党に大反対の下、政府は制度の一部変更や凍結に追い込まれました。
●拡がる所得格差
世界の社会保障制度はその特徴から大きく三つに分かれます。第一は現役時代の税や社会保険料が高いが保障も大きい高福祉高負担のスウェーデンやデンマークに代表される北欧型です。第二は市場原理主義と自己責任が重視される低福祉低負担のアメリカ型です。第三はこれらの中間でフランスやドイツが属します。
現在の日本はアメリカ型の低福祉低負担の政策がとられています。政府は財源不足を口実としてこの傾向を強めています。低福祉政策に対して日本医師会は医療崩壊が進むとして反発を強めています。
政府の財源不足は、保団連によりますと、大企業優遇税制のためと思われます。消費税が導入された時期とほぼ一致して法人税の減税が始まっています。そして消費税率の上昇とともに減税幅も拡大しました。さらに、高所得者の最高税率もダウンしました。結果として消費税収が法人税等の減税分と見合う形になり財源は増加しませんでした。
このことは長い間好景気といわれていますが、庶民の生活は楽にならないことにも現れています。すなわち、所得の分配が不適切で勝ち組、負け組という経済格差の拡大を招いています。
●北欧型に転換を
わが国も社会保障制度を抜本的に見直す時期にきています。低福祉低負担の政策でいくら制度を改革しても国民の支持を得られないことは後期高齢者医療制度の例を見ても明らかです。高齢化が進んでも安心して暮らせる社会は比較的平等で格差の少ない北欧型の社会保障制度です。わが国も高福祉高負担に近づけるべきです。
社 会保障財源の確保としては利益の上がっている企業の法人税率アップと高所得者の累進課税強化を第一に考えるべきです。そうすることで所得の再分配をして少しでも格差を小さくすることが互いに支えあうという社会保障の理念に適っていると思います。
もう一つは国家財政のなかで社会保障費の優先順位を上げることです。つまり防衛費や公共事業費、 その他の予算を削って社会保障を手厚くすることです。最近このような動きが政府にも出始めました。09年の予算では、医師不足対策を他を削って捻出することになっています。このような対策を次々にとらないと、医療、介護、年金ばかりでなく国家の崩壊にもなりかねません。
●信頼できる政府に
高福祉高負担の場合、最も大切なことは国民の政治、行政に対する信頼感です。政治家、官僚、行政に携わる人は常に国民の目線に立って政策の立案、実行をしなくてはなりません。
また、国民は政策を単に批判するばかりではなく、時に対案を提示する必要があります。このように国民と行政のコミュニケーションがとれるならば今より住みやすい福祉社会になると思います。
■群馬保険医新聞2008年8月号
(松沢医院)