第38回定期総会議案
2007年度の活動をふりかえって
2007年度は「医療崩壊」が国民の前に現実問題として立ち現れた年だった。新臨床研修制度を契機に表面化した医師不足により、病院の産科、小児科が次々と姿を消している。また急患を搬送する救急車が何か所もの病院を打診しても受け入れ先がないなど、医療供給体制が機能不全となり、多くの地域で市民生活が安心・安全に維持できない事態に陥った。
2008年4月スタートした後期高齢者医療制度は、患者高齢者に対しあまりに酷薄な内容のため国民的批判が巻き起こった。これに対し長寿医療制度と名称を変えれば民意は納得するとふんだ政府与党の欺瞞的な措置がさらに怒りを増幅させ、福田内閣は急速に支持率を低下させ政権存続の危機に直面した。
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2008年4月、診療報酬が改定された。本体部分が0.38%引き上げられたものの、薬価・材料費が1.2%引き下げられ全体で0.82%のマイナスだった。医科では医師不足、勤務医対策として病院の再診料、手術料等が引き上げられた一方、外来管理加算を五分以上とする制限が加えられた。また後期高齢者医療制度に伴い、後期高齢者診療料が新設された。この後期高齢者診療料については、制度の内容が明らかになるにつれ、医療に対する制約が問題化し、各県医師会長が算定を見合わせよう、あるいは届出は慎重に、など声明を出す異例の事態となった。当協会でもその動きに呼応し「後期高齢者診療料算定は見合わせましょう」との手紙を4月、全会員に送付した。
歯科では、初・再診料がそれぞれ2点増え、前回改定で導入された文書による患者への毎回の情報提供が、口腔状態に変化がなければ3か月に一度に緩和された。また前回導入された歯科疾患総合指導料がなくなり、う蝕・歯周病の指導管理料をあわせた歯科疾患管理料に統一された。このわずかな改善で今回改定を評価する声があるが、あまりに厳しかった前回改定からややゆり戻したに過ぎないことを忘れてはならない。医療費抑制策が変わらない限り疑義解釈や指導等による締付で収支をあわせようとすることは必至である。
改定ごとに名称を変える当局の一貫性のなさ、4月1日から実施する制度が年度末ぎりぎりまで周知されない杜撰な改定手続きの現状は、保険医にいたずらに労力と経済的負担を強いており、今後、医科、歯科ともに改善を強く求める必要がある。
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群馬県保険医協会は、かねてより政府厚労省が進めてきた低医療費政策、医療「改革」路線は、地域医療の崩壊を招くこと、市場原理によって医療、福祉を統制しようとする経済財政諮問会議等の考え方は誤っており、国際的な水準に医療費総枠を拡大する方向に転換すべきと訴え、警鐘を鳴らしてきたが、今日、残念ながら医療崩壊が現実のものとなっている。
わたしたちは、医療改善運動をはじめシンポジウム、講演会の開催などを通じ、群馬県内での医療崩壊の実態を明らかにしつつ、国には低医療費政策を見直すよう、また国民には医療、社会保障制度について真剣に考えることを呼びかけ活動を行ってきた。
2008年度の活動方針
社会保障制度の充実は国民の願いである。地域医療を今日の崩壊の危機から救い、再生を図るためには、患者に自己負担を強い、医療供給を制限する道ではなく、公的資金で医療費の総枠を拡大する道に早期に転換すべきである。少子高齢化が進み、若年層の負担が増えすぎて不公平との意見は世論操作のためのこじつけであり、政府は財政負担を、企業財界は保険料の事業主負担を減らしたいというのが本音である。
後期高齢者医療制度に対する批判が高まる今、世論を背景に医療費削減政策を止めさせる好機と考える。社会保障制度の財源は、企業の法人税も当然対象とすべきであり、また逆進性となって経済的弱者に大きな負担を強いる消費税は選ぶべきではない。
世界に誇るわが国の医療制度を維持発展させ、社会保障を充実させる道は、政府、財界にとっても結果的に有益であることをわれわれは広く訴えなければならない。同時に米国型医療制度の問題点も明らかにし広報する必要がある。
かくして今年度は、世論を味方に医療問題を幅広く論じ、テレホンサービスやホームページで取り上げてゆく。さらに 地方議員や行政、マスコミ関係者との懇談を通じ、世論形成を意識して活動していきたい。
また会員拡大に務め、あるべき医療制度をともに考える医師・歯科医師を結束させ、良質な診療を行っていれば報われる環境づくりを目指す。
この間、厚労省の診療報酬改定の手続きの杜撰さは目に余るものがある。改定の通知発表から実施までに猶予期間を設定させること、診療報酬体系の単純化、レセプト審査の公開、診療報酬の振込明細書の交付などの要求について保団連を通じ当局に実現を求めていく。
今年度も引き続き次の課題に取り組んでいく。
1、国民皆保険制度を崩壊させる「医療制度改革」に反対する。
1、後期高齢者医療制度に反対し、廃止を求める。
1、レセプトオンライン義務化に反対する。
1、登録医制、診療報酬の定額払い制に反対する。
1、保険外併用療養(混合診療)の拡大に反対する。
1、保険診療で経営が安定し、良質の医療が確保できる診療報酬を求めて運動する。
1、物価、人件費の高騰にみあった「一点単価」の引き上げを要求する。
1、保険診療に関する情報収集に努め、医学的常識と医師の裁量を尊重した審査、指導、レセプト審査の公開を要求する。
1、女性医師支援の運動を継続する。
1、女性の医師・歯科医師交流会を計画する。
1、Hibワクチンの定期予防接種早期導入を県、市町村に要望する。
1、健康テレホン、院内だより、食生活を考える会の活動を継続する。
1、各種共済制度の普及をすすめる。
1、平和を守る活動に取り組み、「核戦争防止群馬県医師の会」を支援する。