【第51回全国医学生ゼミナール報告】
明日の医療を考える
-全国の医学生ら280人が群馬に集う
第51回全国医学生ゼミナール・イン群馬(以下、群馬医ゼミと略)は、8月11日から14日まで4日間にわたって開催されました。280名ほどの医療系学生が全国から集まり、メインテーマ「身近な地域、そして世界から、明日の医療を考える」のもとで学びました。
この群馬医ゼミ三日目に、帝京大学名誉教授の大村昭人氏をお招きし「医療でみんなの幸せを―医療費亡国論から医療立国論へ」をテーマにご講演いただきました。
医療費亡国論から医療立国論へ
-大村昭人帝京大学名誉教授が講演
大村先生は、日本の医療崩壊・深刻な医師不足がなぜ始まったのか、そして医療を再生するためには何が必要かについてお話してくださいました。
日本の医療崩壊が始まった背景にあるものとして、医療は負債という固定観念(医療費亡国論)にとらわれて医師絶対数の不足を覆い隠し、強引な医療費抑制政策と医学部定員削減を行ってきたことや、人口の急速な高齢化、生活習慣病の増加、医療の進歩が救急医療の質と量を変えたこと、医療提供施設の機能分担の欠如とそれによる勤務医の疲弊、根本的な問題を放置したまま導入した卒後研修必修化によって医学部付属病院のマンパワーが急速に不足したこと、そして働く女性支援制度の欠如を挙げました。
このような現状は、1983年に発表された「医療費亡国論」から始まったと言います。アメリカ・イギリス両国の医療政策の失敗を紹介し、不用意な総医療費抑制、市場原理化は医療の荒廃を招くことや、小さな政府が必ずしもよいとは限らないという考えをお話くださいました。
〈医師養成の現状〉
日本の医師養成制度の問題点に関して、特に医学部教育スタッフの圧倒的不足(欧米の5分の1から10分の1、診療、教育、研究で一人三役という不可能な業務)や卒前・卒後教育に二つの省庁が関与するため整合性がないこと、医師法17条による臨床教育の制限といった点についてお話して下さいました。
まとめでは医療再生に向けてすべきこととして、誤った固定観念(医療は国の負債)を捨て社会保障費を大幅増額すること、財政構造の根本的な見直しを行うこと、医療費をOECD平均(10%)まで段階的に引き上げることなど一二項目挙げました。
最後に学生にむけて、「医療再生はできる。医療は成長産業であり福祉を抑えて医療を抑えてというのは間違い。医療立国にこそ光あり。こういったことを社会、政治家に声をかけていこう。専門家として社会に出るわけだから、こういった考えを身につけて役立てていってほしい」とエールを送ってくださいました。
〈医療再生へのステップ〉
私たちは、この群馬医ゼミを通して、医療を再生する上で必要な理念として「患者さん中心の医療」が大切であること、そして医療再生に必要な行動7ステップを考えました。
①切実な問題を自覚した当事者が立ち上がること
②問題の実態把握のための調査
③身近な人へ説明
④持続的学習の場を設け共通の認識を形成すること
⑤問題意識を共有できる仲間を集めること
⑥具体的な行動を提示し、持続的に展開すること
⑦認識と運動を医療施設の維持・設置に限局せず、国全体で健康を守り、全国民が健康になるように取り組むこと
というものです。
この医ゼミで感じたこと考えたことをここで終わらせずに発信していきたいと思います。そして、少しでも多くの人を巻き込んで、「何を大切にしたいか、どんな医療を求めているのか、一人ひとりに何ができるのか」を問いかけながら、これからも学び続けていきたいと思います。
今年も医ゼミ開催にあたり、多くの医療関係者の方々からあたたかいご支援をいただきました。本当にありがとうございました。(群馬大学医学部4年)
■群馬保険医新聞2008年9月号