【大野病院事件に無罪判決!】

【2008. 9月 19日】

大野病院事件に無罪判決!

日本中の医師、とりわけ「メス」を執る外科系の医師が固唾をのんで注目していた大野病院事件の判決が福島地裁であり、当然のことながら、担当の加藤克彦医師に無罪の判決がありました。
すでに周知のとおり、大野病院事件とは2004年12月福島県立病院で帝王切開手術を受けた妊婦さんが癒着胎盤による出血多量のため死亡したのは担当の加藤医師の過失によるものとして、06年2月に逮捕起訴された事件です。今年3月、検察は禁固1年罰金10万円を求刑していました。
 判決では、逮捕の根拠となった癒着胎盤の危険性に関して、臨床医学の水準に照らしても過失にはあたらないとして、検察の主張をしりぞけました。
医師として、あきらかなミスをおこしたわけではなく、非常識な医療行為を行ったわけでもなく、全力を尽くして患者さんの救命に頑張った医師が、患者さんの死亡という結果のみで逮捕されたことは、全国の医師、とりわけ外科系の医師にとって衝撃的なできごとでした。当協会も、その不当性について紙面を通じて強く抗議してきました。
 
 警察権力介入の大きな波紋
 
無罪判決によって、加藤医師の逮捕・起訴の不当性は証明されました。しかし、この事件が日本の医療界に与えた影響を考えると、簡単に喜んではいられません。
まず、この逮捕・起訴をきっかけに、すでに問題化していた産婦人科医のお産離れが全国で加速し、出産を扱う病院・診療所が相次いで閉鎖される原因になったと言われています。その結果として、出産する病院まで50キロ以上もある地域まで生じ、少子化の中で、安心・安全な出産ができない妊婦さんが続出しています。いわゆる萎縮診療です。この流れは産婦人科だけでなく、外科や麻酔科にも及び、近い将来、緊急を要する手術も数か月待ちになると言われています。
 このように、日本の医療全体に最悪の結果をもたらすことが明らかなのにもかかわらず、逮捕・起訴した福島県警及び検察に対し猛省を促したいと思います。
 
 現場に精通した医療事故調を

今回の逮捕、起訴の根拠になったといわれる鑑定書を提出した三人の事故調査委員会のメンバーは、周産期医療を専門としておらず、癒着胎盤の経験がほとんどありませんでした。そのような事故調査委員会の報告書は、メスをとる現場の医師として到底容認できません。医療の現場でおきた事故に関しては、それぞれの症例ごとに精通した委員によって検討されなければなりません。
 厚生労働省が制度化しようとしている「医療安全調査検討委員会」(仮称、医療事故調)がつくられても、そのメンバーの人選と委員会のありかた次第では、今回のような事件が続発する危険性を指摘しておきたいと思います。(理事・今井昭満)

■群馬保険医新聞2008年9月号