「総合医」を考える

【2008. 10月 20日】

「総合医」を考える
                    審査対策部 長沼誠一

 総合医という言葉が、日本医師会や厚生労働省から聞こえ始めてきた。今年四月から導入された後期高齢者医療制度の中にその兆しがある。これまでの経緯を追ってみた。

 1、後期高齢者診療料

 後期高齢者診療料は、「患者の同意を得た上で、他の医療機関での診療スケジュール等も含め、定期的に診療計画を作成し、総合的な評価や検査等を通じて、患者を把握し、継続的に診療を行う事を評価する」とされている。
 高血圧や認知症などの患者を一箇所の医療機関が管理し、医師の四日間の研修を要件に月600点を設定。医学管理、検査、処置、画像診断の費用が包括されている。厚生労働省は、何回受診しても、どんなに検査や処置を受けても負担は月600円で変わらないと宣伝しているが、一方では診療回数や検査を減らして管理するほど医療機関の収入が増えるという、包括性に固有の手抜き医療を誘いかねない。また、例によって医師の書類書きの手間を増やしている。
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 これは2006 年の国保中央会による登録医制の提案を背景に具体化された。先に算定した医療機関だけに診療料が支払われる仕組みで登録医制の走りとの危惧を抱かせる。
 高齢者は病気の種類も多くなり、内科で血圧の薬をもらっても、腰痛で整形外科にもかかるし、白内障で眼科にかかることもある。それが、内科でこの診療料を算定すると、他科では検査料の算定制限につながるおそれがある。
 一人の患者でも、病気ごとに適切な対応をするには他科との協力は必然である。医療機関の連携を阻害するような制度は、患者が自由に医療機関を選ぶ障害になる。
 日本の保険診療の基本は、保険証さえあれば、どの医療機関でもいけるというフリーアクセスだが、それを制限しかねない。そのことに気づいた医師会や保険医協会は、後期高齢者診療料届出ボイコット運動を行った。

 2、厚生労働省の総合科
 
 厚労省は、総合科を創設する方針を2007年5月に決めたが、初期診療を総合科医が行い、必要に応じて専門の診療科に患者を振り分ける二段階方式を定着させて医療の効率化を図り、勤務医の労働環境改善にもつなげたいと説明している。
 総合科は、一般的な症状の患者の訴えを聞き、適切に治療したり、専門医に振り分けたりする診療科で、開業医の多くが総合科医となり、いつでも連絡がつく「かかりつけ医」として地域医療を支える事が期待されている。しかし、いつでも連絡がつくとは、24時間待機せよと言っていることになる。開業医は夜もヒマと考えているようで、自由時間を持つなと聞こえる。
 この総合科は、医師が自由に看板を掲げられる内科、外科などの一般診療科とは違い、厚労省の資格審査や研修等の条件付きとなる。国が技量にお墨付きを与えるこうした診療科は、これまでは麻酔科しかなかった。
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 日本の医療現場では、日常の診療を行う診療所や中小病院と、24時間対応で入院と専門治療に当たる大病院との役割分担にあいまいさがある。そのため、胸の痛みやめまいなどを感じた患者が、どの医療機関にかかるか迷った末、大事を取って専門性の高い病院に集中する。軽症患者から救急患者まで多数が押し寄せる病院では医師の勤務状況が悪化し、勤務医の退職が相次ぎ、医療崩壊の一因にもなっている。それを改善するものとして、学術面からは次の学会の活動があった。

 3、学会での総合医

 日本プライマリ・ケア医学会=国民のあらゆる健康や疾病について、プライマリーに対応し、WHOが示したプライマリ・ケアに関する宣言を研究し、実践するために設立された。 
 日本総合診療医学会=総合診療医とは臓器別・からだの部分別に自分の担当する医療の分野を位置づけず、むしろ、医療サービスの段取り、手順の中で自分の役割を位置づけていると、そのホームページでは説明している。群馬県では群馬大学医学部付属病院など三つの病院に総合診療部がある。確かに多くの診療科の中から自分の病気に合った科を探すのは、素人の患者には難しい面がある。
 日本家庭医療学会=現代の医療の専門細分化、身体面の偏重、研究の重視等の問題点を考えて、病んだ一人の人間を、家庭と地域とを統一体としてとらえる医療を求めて、それを実践する家庭医の養成をめざすとされている。
     
 これらの三学会は独自に認定医制度を持っているが、理念や会員などの共通点も多く、厚労省や日本医師会の総合医の流れもあり、2007年から協力して、NPOでの家庭医認定制度を始める流れになっている。

 4、日本医師会の総合医

 日本医師会では、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医を紹介できる、地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師(総合医・総合診療医)を養成するため、認定制度を創設する考えである。厚労省が認定制度を立ち上げる前に創設することこそが、フリーアクセス制限等を防ぐとしている。
 これまでの生涯教育制度を底上げし認定制度を主導的に創設するとして、県や市の医師会にも意見聴取しているが、反対意見も多い。

 5、概説

 学会でいう家庭医、総合診療医という、医療内容としての問題意識が、厚労省に行くと保険診療管理の道具になりかねない。総合医が医療を良くすることを目指すのではなく、医療費削減が目的となるなら、おかしな制度になるだろう。それを防ぐためという日本医師会の総合医認定制度にも問題がないわけではない。
 日本医師会の認定制度には認定産業医があるが、講演会の受講単位を集めると認定され、その技量や経験は問われない。認定医制度一般にいえることだが、受講単位数や学会加入が条件になり、学会維持には貢献しても、実力、内容を伴わない恐れも十分にある。総合医の認定制度もその内容、目的により、今後十分な吟味が必要だ。
 

■群馬保険医新聞2008年10月号