【論壇】小児科開業医の現状

【2008. 11月 20日】

【論壇】

   小児科開業医の現状

                               ―病診連携の可能性をさぐる
  
 

 一人の小児科開業医として、自分の考えを述べてみたいと思う。
 
 ◎小児科医不足
 私は時折、医者以外の方から、「今、小児科のお医者さんが足りないんですってね」と言われることがある。「うちの子も、しょっちゅう夜中に熱を出してお世話になりました。小児科のお医者さんには本当に頭が下がります」等と言われると、悪い気はしないが、居心地が悪くなり、もぞもぞしてしまう。
 しかし気を取り直して、ここで少し宣伝をしておかなくちゃとばかり、「小児科医が足りないというのは病院のことで、開業小児科医は多すぎるくらいです。病院も昼間はまだいいのですが、夜間の急患対応ではどこも医師が不足しています。
 前橋には夜間急病診療所があり365日、20時から24時まで開業医が交代で当直していますが、これを深夜まで延長するのは難しい。開業医は交代要員がいないし、高齢の人が多く、夜は眠らないと日中の診療に影響が出てきます。医者も生身の人間ですから…」などと話す。
 
 ◎競合する小児科医院
 また一方、「勤務医が過酷な労働に耐えられず、我慢もここまでとばかりに、年収も多く当直もないラクな開業へと流れ、病院を立ち去る。その結果、病院はますます医師不足、過酷な労働という悪循環が止まらなくなる」という話をいろいろなところで聞く。
 しかし年収が多く、当直もないラクな開業というのはちょっと違うぞ、と思うのである。
 前橋市の場合、最近開業小児科が非常にふえて、既に競合状態にある。少なくとも私の所は、勤務医よりも収入が確実に低い。
 私自身は既に60歳を超え、家や家族のため、また開業時の借金返済のため働く必要はないので、少ない患者さん、少ない収入でも、こころ豊かに小児科診療が出来ればそれで良いのだが、家や家族のためにまだまだ働いて稼がなくてはならない若い世代の人には、小児科開業は非常に困難な状況である。
 
 ◎地域保健を担う
 さらに、開業医はラクかというと、勤務医とまた違った苦労がある。当直は夜間急病診療所の当番という形で受け持っているし、時間外の一次医療や夜間の電話などにも結構対応している。
 この他、予防接種、校医や園医の仕事、健診事業にも決して多くない報酬で奉仕している。診療の終わった夜には生涯教育、各種委員会、理事会などの会議があり、その出席回数は病院勤務医とあまり差がないように思う。私の夫は病院勤務医であるが、開業医の私と夜の会議はほぼ同じ頻度である。
 そして休日当番では(特に年末年始に当たると)膨大な数の患者さんを少ないスタッフで診ることになり、昼休みもなしで働くのは苦しい。
 
 ◎事業主として
 また開業医の苦労は、医学の仕事以外に、個人事業主としての仕事もかなり多いということである。職員の給料、福利厚生、退職、求人、薬剤の管理、薬屋さんへの支払いと、慣れない仕事で、医者の仕事だけしていられたらどんなにラクかと思う。
 自分の病気や、家族の都合、学会、休暇などで休むとなると交代医師を捜すのは現実的に不可能で、どうしても休診にしなければならない。この間診療所の収入はゼロになるが、諸経費は出費しなくてはならないし、患者さんには不便をかけ、評判を落とすことにもなる。
 勤務医は休んでも、給料は変わらず出るし、学会にも、交代要員がいるので開業医よりも行きやすく、出張手当が出ることもあるようだ。産科を開業しているある先生が、開業して以来二十数年間、一度も県外に出たことがないとおっしゃっていたが、お産を受け持つ産科開業医は、想像以上に大変な人生を送っている。
 
 ◎病診連携の道は 
 勤務医と開業医は、自分たちの立場をもっと明らかにした上で連携し、共に医療のあるべき方向を探すことが重要だと考える。また、病診連携については、都市部と山間部では異なったシステムを考える必要がある。
 前橋市の場合なら、開業小児科がこれだけ多いのだから、原則として一次医療、一次救急は開業医が中心となり、病院小児科は入院を基本とした二次、三次の医療を行うという役割分担が必要である。更にこのシステムで、経営が成り立つような診療報酬体系が必要だと思う。この際、最初に医療費削減額が決められ、それに合わせて切り捨てられるところから切り捨てていくといった政策は止めるべきである。
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 これからはますます開業医への締め付けが強まると予想される。一方、病院も格付けが進み、条件を満たさなければ切り捨てられる時代になった。
 開業医も勤務医も、それぞれの存在意義をアピールし、互いの立場を理解しながら、医療を良くする方策を積極的に考え、地元の医療システムに参画することが重要だと思う。
 なお、山間部についてはその地域の当事者のお考えをお訊きしたいと考えている。(副会長・柳川洋子)   
 
■群馬保険医新聞2008年11月号