【論考】
総合医構想に反対する
前橋市 松澤一夫
誤った医療政策のツケ
平成19年5月、厚労省は地域医療の崩壊をくい止めるために「総合医」構想を打ち出しました。小児から高齢者までの幅広い疾患の初期診療を担い、24時間診療や相談に対応することとしています。さらに、身体面ばかりでなく精神面も含めた全人的医療を行なうことになっています。
この構想は厚労省がこれまで行なってきた誤った医療政策を開業医に転嫁することで地域医療を再生させようとしています。今回はこの構想を批判的に検証し、医療再生の道を探ります。
スーパーマン待望論
医師が増えると医療費が上がるとして長く続いた医師数の抑制政策に加えて、平成16年に始まった新医師臨床研修制度により、地方での病院の医師不足が顕在化しました。今日では、救急車「たらいまわし」は日常的となり、時に不幸な事例が報告されています。
最近になり厚労省は医師の絶対数不足を認め、医学部定員の増加を決めました。しかし一人前になるまでに最低10年はかかるため速効性がありません。このような文脈のなかで出てきたのが総合医構想と思われます。
いつでも、どこでも、何にでも初期対応できるスーパーマンのような医師が多ければ地域医療の再生は簡単です。総合医にはそのようなことが期待されています。
私は上記のような二つの理由、すなわち厚労省の誤った政策による医師不足の穴埋めになりたくない、また期待される総合医になれそうもないことにより、この構想に反対です。
医療再生の道
近年の医療崩壊に対して、この構想よりも急を要する対策は多いと思います。最も重要なポイントは病院勤務医不足とその過重労働に対する問題です。
◎医師の再配置
第一は地方の病院勤務医不足をいかにして解消するかです。長い間弊害がありながらも、大学医局が少ない医師を上手に各病院に過不足なく派遣してきました。新医師臨床研修制度開始以降、この機能が麻痺しました。地方の病院では医師の引き揚げにあい、診療科の縮小や閉鎖があいついでいます。
厚労省は大学、医師会、病院等と協議して医師の再配置を主導すべきです。これまでのように国民が安心して近くの病院で医療を受けられるようにする責任があります。
◎機能分化
第二は以前から指摘されていることですが、病院と診療所の機能を明確にする必要があります。病院は高度な医療機器を使う検査と治療、入院に特化すべきです。初期診療、安定した慢性疾患、軽症な感染症などは診療所が受け持ちます。
病診連携を密にして、必要に応じてお互いに紹介しあえばよいと思います。最近、このようなケースが多くなりましたが、まだ不十分です。今後検討の余地が残ります。
◎時間外の役割分担
第三は診療時間外や休日を誰がどこで診るかということです。現在、開業医が交代で夜間診療所や休日当番医で対応しています。しかし、十分に機能しているとはいえません。軽症な患者さんが多数病院に押しかけ、重症な方の治療の支障になっている現実があります。
病院によっては軽症な方から負担金を多く徴収する等の対策を立てはじめています。厚労省は時間外診療における病院と診療所(夜間診療所等を含む)の役割分担を医療制度改革等に盛り込むべきと思います。
現在進行中の医療崩壊を簡単にくい止めることは難しいと思います。出来ることから少しずつ改善していくしかありません。前述のようにして病院医師が現在より充足したならば、開業医も安心して地域医療に取り組めると思います。その後に総合医構想が出てくるべきです。
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この構想は開業医のありかたを根本的に見直すものです。これまでも主治医やかかりつけ医はどうあるべきか、議論されてきました。主題は常に患者さんの立場で、より良い医療を推進するためにはどうするのかということでした。今回の総合医は診療報酬、健康保険制度と連動している点にも大きな問題があると思います(松沢医院)
■群馬保険医新聞2008年12月号