【診察室】 眼科
カラーコンタクトレンズと眼合併症
前橋市・宮久保眼科 宮久保 寛
服を変えるように目の色も…
眼鏡の代わりに使用されるコンタクトレンズには、いろいろな種類があります。その中に装用することにより目の色を変えてしまうカラーコンタクトレンズがあります。これは美容が目的でおしゃれ用レンズとして使用されています。
通常の視力補正用のレンズは、度数があるものの透明です。カラーコンタクトレンズはレンズの周囲に色のついた模様がありこの模様の色により、日本人であれば茶色い虹彩が青色、黄色などに見えるようになります。片目銀色、片目金色の虹彩というハスキー犬のようなこともできるおしゃれ、遊び用のコンタクトレンズです。そのため使用者の大部分は若い女性が多く、服を変えるのと同じように、自分の目の色を自由に変えて、楽しんでいます。しかし、カラーコンタクトレンズには様々な問題点があり目の合併症が多発しています。
3割に合併症の報告
ご存知のように、コンタクトレンズは目に直接触れるものです。このためレンズの品質に問題があれば障害が起きやすく、取り扱い方が間違っていると、その影響が直接目の表面の角膜に影響してきます。さらに品質が良くても取り扱いが誤っていれば、レンズの劣化を招き、障害を生じます。レンズに使用されている材質の性能から使用の制限も当然あり、それを守らなければ障害が起きてきます。カラーコンタクトレンズはこれらのいずれの問題も含んでいるレンズなのです。
眼合併症の頻度について見ますと、通常のソフトレンズでは使用者の19%に合併症が発生しているのに対し、カラーコンタクトレンズでは31%に起きたという報告があり、1.5倍位カラーコンタクトレンズで障害が起き易いことが示されています。
カラーコンタクトレンズでどのような障害があったかといいますと、平成20年の製品評価技術基盤機構からの報告では167件の眼障害例が報告されています。主なものでは角膜炎が27%、角膜びらん27%、角膜潰瘍14%、角膜浸潤が13%でした。びらん程度なら大きな合併症ではないのですが、角膜潰瘍、角膜炎は失明につながる疾患です。実際、治癒に1ヶ月以上を有した重症なものは13%あったと報告されています。
カラーコンタクトレンズの品質について各銘柄10枚ずつランダムに調査した報告でみますと、直径、厚さなどの形状の表示のないものがあり、表示があっても誤差範囲を超えているものもあることが明らかになりました。視力補正用に使用されている通常のレンズでは、このようなことはありません。
着色部もレンズ表面に直接着色されているのがほとんどで中にはレンズ内面にもあったり、着色ペイントとは別なインクが一部塗られているものもありました。これらのことから製品の製造管理が行き届いていないことは明らかです。また、最近食品の賞味期限切れの販売が問題となっていますが、このレンズでも使用期限切れの販売がありました。
取り扱いの説明・指導が不十分
カラーコンタクトレンズは視力補正の度数が入っていませんので、通常の視力補正用のコンタクトレンズを使用している方がカラーコンタクトレンズを使用することは少なく、使用者の大部分は今までコンタクトを使用したことのない、視力の良い方です。
そのような方が多いのですから、当然取り扱い方、管理の仕方について説明文書さらに口頭での説明、指導が必要です。ところが、使用により障害を起こした方の調査では、使用説明を受けていないものが84%、取扱説明書を渡されていないものが34%もありました。これでは、洗浄、保存の仕方を知らずに使用することになり、障害も発生しやすいことは納得できます。
通販で購入できる“おもちゃ”
カラーコンタクトレンズで障害を生じた方の購入場所を見ますと、インターネット、雑誌からが半数を占めていました。このことが取り扱い、管理の知識の不足をもたらしていると思われます。障害者の大部分は、服のような感覚でカラーコンタクトレンズを装用し、特別に管理は必要ではないという認識で使用していたと思われます。
1日での使い捨て以外のカラーコンタクトレンズは使用されているレンズの性能上、酸素透過度が低いので、長時間の装用、頻回装用をしますと、角膜浮腫、角膜びらんを起こしてしまいます。そのため1日数時間で中止し、週1?2回の装用が望ましいのですが、カラーコンタクトレンズの眼障害者の統計では1日10時間、ほぼ毎日装用するなどの無茶な装用例が多いこともわかり、如何に管理、使用法の指導がされていないかが明らかになりました。
何故、今時これだけ危険性のあるレンズが市場に出ているかと疑問をもたれると思いますが、これは通常の視力補正用のコンタクトレンズとは、法令による縛りが全く違うからです。視力補正用のコンタクトレンズは薬事法により規制されているのに対し、度数のないカラーコンタクトレンズは、消費生活用製品安全法の雑品扱い、つまりおもちゃとほぼ同じ扱いであり、通信販売や雑貨店、エステティクサロンなどで販売されています。これがカラーコンタクトレンズでの製品上のムラ、販売に際しての取り扱い文書がないこと、レンズの規格が不明などの問題を起こしているのです。
法規制の動き
何でもアメリカ追随というのは好きではありませんが、アメリカでも日本と同様眼合併症が発生したことから、アメリカでは製造販売まで通常の視力補正用のコンタクトレンズと同様の規制がされています。日本も度数の入っていないカラーコンタクトレンズも高度管理医療機器として承認を必要とする方向で規制が検討されています。これによりカラーコンタクトレンズの問題はかなり改善されると期待されます。
カラーコンタクトレンズは問題の多いレンズですが、おしゃれに使用したい方は、毎日使い捨てにするワンディタイプのレンズが安全でおすすめです。これは酸素透過度も高く、レンズケアの問題もないので障害の発生が少ないレンズです。