地域医療に大きな波紋 ―館林厚生病院の小児科医引きあげ

【2009. 2月 16日】

   

 地域医療に大きな波紋 ―館林厚生病院の小児科医引きあげ

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4月から館林厚生病院小児科が大幅に縮小する。群馬大学が派遣していた常勤医2人を引きあげるためで、これにより救急・入院ができなくなり、外来の存続も危ぶまれている。

 ◎診療所も医師不足
 「前橋や高崎と同じ土俵で考えてもらっては困る。大変なのは病院だけではない」というのは2年半前に館林市内でこやなぎ小児科を開業した小柳富彦院長だ。
 冬季は1時間に25人くらい診ないと間に合わない。午前中だけで100人診ることもある。インフルエンザの予防接種は9月から予約を開始、10月から12月まで毎日昼休み時間を予防接種にあてた。それでもさばき切れず、予約を断ったこともあった。
 とにかく小児科医が少ない。「前橋や高崎の数倍も小児人口をカバーしていると思う」。
それをどうこなしているのか。こやなぎ小児科ではチーム医療を徹底、問診は受付・看護師が担い、医師は診察に集中する。24時間受付の予約システムに、いまでは患者家族も慣れて、予約制がスムーズに流れている。

 ◎地域格差 
 群馬県は10の二次保健医療圏に分けられている。15歳未満の人口1000人あたりの小児科医数は、前橋医療圏で1.59人(大学も含む)、高崎・安中で0.83人に対し、太田・館林では0.50人(日医総研「二次医療圏に見た医師の偏在と不足」)。
 また、一人の小児科医が何人の子どもをカバーしているか、小児科診療所に限って比較すると、前橋市では約1600人なのに対し、館林市では約3800人だった(県統計参照)。
 
 ◎後方支援
 館林厚生病院は館林市と邑楽郡の1市5町の事務組合が運営する同地域では唯一の公的総合病院である。356床の一般病床をもち、医療圏は約19万人。小児科外来は1日40人、年間延べ四千数百人の入院に対処してきた。
 小児科の常勤医は群馬大学からの派遣医2人と研修医1人。2人引きあげられれば救急・入院は受け入れ不能になり、慢性疾患を対象とする外来だけ残るのではないかと言われている。
 館林・邑楽地区には約30の小児科標榜診療所があるが、多くは内科医で、小児科専門医は5人(館林市では3人)しかいない。これまで内科医が小児も診てきたのは、近くに館林厚生病院があることも要因の一つだった。

 ◎地域連携
 館林・邑楽は県内でも病診連携が進んでいる地域である。日曜当番医制に加え、2002年から月曜~金曜、06年からは土曜も加え、夜間急病診療所を医師会の30数人が担ってきた。「内科・小児科」で年間1500人の利用があり、産科、外科、耳鼻科、整形外科医も診療にあたっている。
 「医院と病院が協力して現在はいい体制ができている。重症患者の対策が前提にあるからだ。それが崩れれば、夜間診療所や当番医の根幹が揺らぐかもしれない」
 入院や手術、精密検査が必要になった場合、これからはどこに依頼することになるのだろう。最も心配されるのは救急だ。 
 安楽岡一雄館林市長はこの間、両毛医療圏の連携を強調、足利赤十字病院、佐野厚生総合病院に緊急時の受け入れを依頼した。しかしいずれの病院も余裕があるわけではない。地元住民を断ってまでベッドを確保してくれるのだろうか。
 
 ◎周産期医療
 産科はさらに深刻だ。館林厚生病院は2005年4月から産科を休診している。いま館林でお産を担っているのは2診療所である。
 ハイリスク出産は新生児を診る小児科医のバックアップが欠かせない。これからは太田か桐生か、県外か、患者を診ながら紹介先をさがすことになるだろう。受け入れ先がみつかっても、救急車で30分以上というのは遠い。

 ◎窓口を一本に
 当面必要な対策として、小柳院長は緊急時の窓口確保をあげた。なにかあったときに医師が個々に受け入れ先をさがすのではなく、館林厚生病院の地域連携室が一括して引き受ける。それだけでも混乱は軽減するに違いない。
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 嘴が折れた鶴からは優雅な姿を想像できません。これが東毛の医療の姿です…
 太田の会員からこんなメッセージが届いた。

■群馬保険医新聞2009年2月号