【論壇】
改めて「説明と同意」を考える
◎変なこと、あれこれ
少し古い話になったが、昨年の世相を現す「今年の漢字」は「変」だった。全国から11万1208人の応募があり、この数は過去最高。「変」は6031通を集めたという。
昨年はほんとうに「変」な1年だった。地球規模で自然災害が多発し、暮らしのなかでは食の安全が大きく揺らいだ。アメリカの金融危機から始まった経済不況は「派遣村」という新しい言葉まで生み出し、生活保護を申請する働きざかりが一挙に増えた。総理大臣の任期がいつからか1年になった(?)のも、政治の「変」である。
◎モンスター
TVドラマでブレイクした「モンスターぺアレント」とは、教師に対する親の異常行為で、そのモンスターぶりがマスコミでも取りざたされたが、「モンスターペイシェント」がクローズアップされるようになったのも、ここ数年のことである。
ちなみにインターネットのWikipedia「モンスターペイシェント」を検索すると、…モンスターペイシェントとは、医療従事者や医療機関に対して自己中心的で理不尽な要求、果ては暴言・暴力を繰り返す患者や、その保護者等を意味する和製英語…とある。
また、少し長くなるが、産経新聞ではモンスターペイシェントについて次のように報じた。
…患者の暴力深刻・全国の病院半数以上で被害/2007年の一年間に全国の病院の半数以上で、病院職員が患者や家族から暴力を受けていたことが、全日本病院協会の調査で分かった。医師らの対応や待ち時間への不満が引き金になった事例が多く、深刻化する「モンスターペイシェント」と呼ばれる患者の実態が浮かび上がった。(略)
内訳をみると、患者から暴言を吐かれるなどした精神的暴力が2652件と最も多く、患者の暴力でけがをしたなどの身体的暴力は2253件、セクハラ(性的嫌がらせ)は900件だった。また、患者の家族から暴力やクレームを受けたケースも904件あった。
ただ病院側が実際に警察に届け出たケースは、全体の5.8%。弁護士に相談したケースも2.1%にとどまり、医療現場が患者の暴力への対応に苦慮している実態も伺える…
◎欠落した信頼関係
歯科診療の中でも「変」なことは多い。例えばこんなことがあった。他県における歯科医院での出来事である。
約20年前、バブル景気に衰えが見え始めた頃、他院にて加療中の患者さんの家族から、ある相談を受けた。セカンドオピニオン的に対応。
パノラマXray写真を見せられて、「先生見てください! この状態で、Pcurの処置をしますか。あそこの院長は、患者の治療の合間に船舶ボートのカタログを見比べていて、治療がいい加減なんです」。もし相談を受けた歯科医師が、「私ならしませんよ」と言えば、裁判に訴えるような勢いであったという。歯科医との関係がどこでどう狂ったのか、「坊主憎くけりゃ、ケサまで憎い」状態。
Pcurの治療に関しては、パノラマXray写真だけで判断できないと周知されているが、臼歯部の骨吸収は中等度であり、歯肉溝の状態や口腔ケアの状態を加味すればPcurも治療の選択肢になる。今では聞きなれた言葉であるが、インフォームド・コンセント(説明と同意)の行き違いがあったようだ。
保険医協会では毎月1回、市民のための歯科電話相談を実施している。ここ2年ほどの相談内容を見てみると、現在歯科医院で加療中だが、治療に不安があって相談してくる場合が半数を超えた。患者に対し、事前に病態と治療について説明し、納得して進められれば、防げるような印象を受ける。
◎患=モンスター?
先ほどのWikipediaで「患」と検索すると…患は中国に伝わる怪物の一種。監獄に閉じ込められた罪人達の憂いの気持ちが集まって誕生したとされる。牛のような姿をしており、目は青く、背丈は10メートルくらいある。また足が地面にめり込んでおり、人間の力では動かせないという…
患者は誰もが怪物=モンスターに変わる可能性がある。しかし、患者の言い分すべてをモンスター扱いしては危険である。明日から、患者がモンスターに変わらないように、前向きに向き合い、診療に従事することを改めて意識したい。治療する医師、歯科医師側と患者の気持ちが歩み寄ることが重要である。それには、昔は先生様、いま患者様という呼び方を改めるところから始めてもいい。
◎歯科点数の「変」
歯科の再診料は38点である。この中にはかなりの処置が包括されている。月一度、歯科疾患管理料120点が算定できるが、総義歯では算定できず、義歯調整も2回目からは再診料に含まれる。一割負担であれば、窓口での負担金は40円である。
医科では再診料が71点、外来管理加算52点、特定疾患療養管理料225点。歯科も、せめて医科並みの点数設定を望みたい。歯科医療界を苦しめている本当のモンスターは、厚労省?
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2月28日(土)夜の研究会では、大阪府保険医協会の尾内事務局次長が「まさかのトラブル対策」と題してモンスターペイシェントについて講演する。皆様のご参加をお持ちします。(副会長・小山 敦)
■群馬保険医新聞2009年2月号