【診察室】地域連携

【2009. 3月 24日】

【診察室】地域連携

 前橋赤十字病院の地域連携
 -地域医療支援病院として連携室の果たすべき役割-

  前橋赤十字病院 地域医療支援・連携センター 地域医療連携課長 

                                       須賀一夫

 1.はじめに
 当院は平成13年12月(平成14年1月より算定)に、「かかりつけ医」と「病院」との共同診療並び当院の施設設備や高度医療機器の共同利用等の推進を目的として、全国39番目、群馬県で2番目の地域医療支援病院としての承認を受けました。地域医療支援病院は全国二次医療圏ごとに1施設以上の設置がすすめられ、全国216医療機関(平成20年10月3日)、群馬県では6医療機関(平成21年2月1日現在)が承認されています。
 地域医療支援病院は施設基準として、毎月の紹介率が80%以上(または承認後2年以内に80%以上の達成が見込まれる)であることが必要です。ただし改正があり、毎月の紹介率60%以上及び逆紹介30%以上または紹介率40%以上及び逆紹介率60%以上の場合でも地域医療支援病院として同様に扱うこととなっています。1ヶ月単位なので紹介率の要件のどちらも該当しなければ、一旦返上が義務付けられております。その場合は3ヶ月間継続して要件を満たしたら、その該当実績をもって再度申請を求められております。
 紹介率80%というハードルは、地域医療支援病院が紹介型病院であるだけでなく、当然逆紹介(当院ではかかりつけ医の患者さんということから、『お戻し』といいます)しなければ病院内の外来患者数が急激に増大して、院内医師の疲弊だけでなく、患者さんの待ち時間増大、外来の延長診療等で病院の健全経営を脅かすことになります。このほかにも「かかりつけ医」の先生方と高額医療機器の共同利用や手術室、共同診療病床(オープンベッド)の利用、24時間対応できる救急医療整備、地域医療従事者に対する研修、地域連携に関する専門委員会設置と運営が施設基準の要件となっております。
 地域医療支援病院は目的ではなく、地域医療連携事業の成果または通過点に過ぎないと言えます。病診連携において病院の目指すことは、あくまでも地域のかかりつけ医と病院が共同して患者さんの治療を行うことです。したがって病院での主治医は、病院での診療医と普段かかりつけ医とがそれぞれの機能を果たして、診療を効果的に行うことが求められております。

 2.地域医療連携の歩み
 当院の地域医療連携は第1期(平成7年~11年)と第2期(平成12年~13年)、第3期(平成14年~現在)に分けて考えられます。
 第1期は地域連携以前のことで、開業医からは「日赤に紹介しても返事が来ないどころか、患者を帰してくれない」が常でした。院内職員への継続的な啓蒙活動と紹介元への紹介返事の徹底、救急体制の充実(救命救急センター新設)による紹介時に診察を断らないスタンスを明確にしました。 
 第2期では組織的に紹介率を上げる取り組みをしました。病診連携室を新設し、逆紹介は「地域の先生が当院の外来」を合言葉に他病院に先行して行いました。また患者さんの共同診療を行うことを了解した登録医制度を導入して、積極的に連携事業を進めました。
 第3期では連携システムのリファインとし、より紹介元の先生方と患者さんの立場で連携事業を展開しています。登録医を対象とした睡眠時無呼吸症候群や皮膚科フィルムカンファレンス等の疾患別勉強会、登録医から手挙げによる乳がん術後連携パスや骨粗鬆症連携パス等の地域連携パス作り、症例検討会や学術講演会の定期的な開催。担当者
ごとのかかりつけ医担当制度、登録医への定期訪問、郡市医師会との情報共有などです。
 しかし当初は地域の先生方からの信頼を得られるまで、当方の地域連携に対する誠意と連携の意義をしっかり伝えることを繰り返しました。地域の先生方から信頼を得るには、紹介に際して確実で早い返書、苦情や要望に対しては素早い改善を示す、常に患者さんの立場(=紹介元医師)に立って確実で親切な対応を積み重ねることの大切さを学びました。つまり当たり前の事を当たり前にするというものです。

 3.地域医療支援・連携センターの開設
 FAXによる外来診療の事前予約制度は県内でも早くから行っていましたが、待ち時間の短縮のためには紹介状をお持ちでない患者さんと窓口を明確に分ける必要がありました。また病診連携(地域医療連携室)と病病連携(医療福祉相談室)、病在連携(訪問看護ステーション)が別々の場所にあったので、ワンフロアで患者さんの情報共有した方が効果的に患者さんに支援できると感じ、他の病院とのベンチマーキングや登録医や院内医師からの調査を通した結果を踏まえて、平成16年8月9日に地域医療支援・連携センターを開設いたしました。センター化により地域医療連携室は地域医療連携課と名称変更し、当院で紹介状をお持ちの患者さんの全ての対応、事前予約制度の集中対応(現在では概ね依頼があってから、約5分前後のご回答)、紹介状の返書管理、苦情要望に対するセンター内関連部署との情報共有、災害救護業務(社会課)とのよりスムーズな連携作りができました。

 4.病診連携室(地域医療連携課)の行っていること
 【病診連携】
 医療連携では『病院と診療所(病診)の連携』、『病院と病院(病病)の連携』、『病院と在宅施設(病在)の連携』、『病院と院外薬局(病薬)の連携』、『診療所と診療所(診診連携)』等があります。
 病診連携で必要なことは、かかりつけ医と病院の機能分化をしっかりと患者さんに知らせる事と思います。かかりつけ医の良いところは、身近の存在とし、相談しやすい事です。病気のことや健康状態等が気軽に相談でき、長期にわたる病気の経過を管理することです。一方で病院の良いところは、充実した医療設備と豊富な医療スタッフが対応することでしょう。専門的で高度な医療を行う事や緊急時24時間いつでも対応できる事です。
 当院では入院や手術、精査の必要な急性期治療を担当し、かかりつけ医ではフォローアップ外来として、加療をめざ しています。               
 当院は昨年8月より診療科30科と専門分化することで、かかりつけ医や患者さんへの診療科の分かりやすさをめざしました。当院では紹介患者さんを原則として紹介元へお戻しするルールですが、さらに専門医の加療や継続が必要であったり、なかには紹介状のない患者さんが受診されることもあります。この場合には患者さんへの充分なコンセンサスを得てから、共同診療を了解済みのお近くの登録医へご紹介さしあげることにしています。
 さらに、医療のより高度化に対応して、やや専門的な疾患の患者さんを診ていただける、かかりつけ医の先生方との勉強会として疾患別勉強会を開催しています。地域のなかでは診療所と診療所との医療連携である『診診連携』が重要視されており、勉強会に出ていただくことで、より良い医療連携を進められるものと思います。そこから地域連携パスを通じた連携ネットワークづくりをしております。現在は「乳癌術後連携パス」の他に「骨粗鬆症連携パス」、「気管支喘息連携パス」等が稼動しています。連携パスでは日赤が手術や緊急処置等の急性期治療を行ない、その後はかかりつけ医でのフォローアップ外来を続けてもらい、6ケ月や12ケ月後には定期検査を兼ねて日赤へ紹介いただくことにより、医療の質を保つのが狙いです。今後も参加いただける疾患を対象とした、疾患別勉強会や地域連携パス勉強会を通して、患者さんにとってより良い連携づくりを進めたいと思います。

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平成20年度第1回気管支喘息連携パス勉強会

5.医科医師と歯科医師との連携
 医科と歯科診療所の医療連携は難しいと思うものの、そこに病院が介在することで、連携の仕組みはし易くなります。現在日赤では医科と歯科の先生方との共同作業を進めて参りました。なかでも睡眠時無呼吸症候群(SAS)と糖尿病がより善い事例かと思います。SASでは医科診療所からSAS疑いとしての確定診断を病院が担い、口腔内装具の作成を歯科診療所にお願いします。糖尿病では医科診療所からの食事や血糖コントロールのために教育入院を病院が担い、医科診療所では外来加療を行ないます。同時に歯科の先生方には糖尿病と関連性の強い歯周病治療をお願いするものです。

 6.病診連携室(地域医療連携課)の行っていること
 【病病連携】
  日赤には全国21施設のうちの一つである高度救命救急センターを併設しているので、脳卒中を始め脳疾患、心疾患等の急性期患者さんが多く搬送されます。また病院完結医療から地域完結医療に移行、いわゆる医療の機能を有効に利用する必要から、当院と回復期リハ病院との連携パスを通じた医療ネットワークを進めております。
 一昨年2月より当院と回復期8病院による 「大腿骨頚部骨折地域連携パス連携病院研究会」が組織され、昨年4月より当院と11病院による「前橋日赤医療連携の会」が組織され、垣根を越えた病病医療連携を行なっています。
                                        
                                        
 7.まとめに
 地域医療支援病院は地域のかかりつけ医から紹介状を媒体とした支援を頂いて成り立っております。当院は数ある急性期病院のなかから、選ばれる病院でありたいと思っています。また限りある医療資源を有効に使うために、ぜひとも事前予約をいただきたいと思います。今後は益々医療の機能分化が明白になるなかで、かかりつけ医の先生方と、患者さんのためにより良い連携をすすめる所存です。地域の先生方には、引き続きのご指導ご鞭撻の程をお願い申し上げます。

■群馬保険医新聞2009年3月号