【論考】新型インフルエンザ …この1カ月をふり返って

【2009. 6月 20日】

  新型インフルエンザ
               …この1カ月をふり返って

 ◎感染状況
 今回の新型インフルエンザ(ブタ由来A/H1N1)は2009年2月15日にメキシコのラグロリア村で最初の感染者が出た。4月28日に、WHOはパンデミック警戒フェーズを人から人へ感染が見られる状態、即ちフェーズ4に引き上げ、更に4月30日にはフェーズ5に引き上げた。
 日本では5月8日に米国からの帰国者3名にブタ由来の新型インフルエンザの感染が確認された。その後、海外渡航歴のない人からも感染者が出て、6月8日現在国内で確認された患者数は438人となったが、最近はやや終息傾向にある。世界規模で見ると、69カ国、2万1940人(6月5日)が感染した。
 
 ◎症状と傾向
 新型インフルエンザは過去にも、H1N1スペインかぜ(1918年)、H2N2アジアかぜ(1957年)、H3N2香港かぜ(1968年)などが発生し、流行した。ここ数年は強毒性のH5N1鳥型新型インフルエンザの発生が予想され、その対策に国をあげて取り組んでいたが、まさにその時期に今回の新型インフルエンザの発生が起こった。情報の少なかった当初、対応が強毒性の鳥型インフルエンザの対応になったのは、やむを得ない処置だったと考える。
 6月1日現在の情報によると、症状は全体にマイルドで、通常の季節性インフルエンザと同じ程度と考えられ、発熱、咽頭痛や咳、鼻汁、頭痛、全身倦怠感が見られたが、今回はこの他に嘔吐下痢症状も見られた。しかし妊婦や五歳未満児、心疾患、糖尿病、喘息などの基礎疾患を持っている人は重篤になりやすいので、特に感染予防と早期治療が重要である。
 
 ◎検査と判定、治療
 潜伏期間は平均4日間、おそらく7日を超えないであろう。感染可能な期間は、症状の出る1日前から発症後7日の9日間。
 検査では、従来のインフルエンザ迅速キッドでA型陽性と出る。A型陽性と出た人は衛研で遺伝子検査をして診断が確定する。治療薬は、タミフル、リレンザが効くが、アマンダジンは効かない。
 ワクチンはこれから製造にはいるが、孵化鶏卵2~3個から不活化ワクチン1回接種分が出来る。従って1000万人に1回接種するのには2000万~3000万個の孵化鶏卵が必要となる。このため急に大量生産することは難しい。
 日本での流行は今、終息傾向にあるが、まだ予断は出来ない。春、夏でも流行するウイルスもあるし、秋冬に再び流行する可能性もある。従来の季節性インフルエンザと同時に流行するかもしれないし、同時感染によりウイルスが強毒性に変異することもあるので、その意味でも予断は出来ない。
 しかし、新型インフルエンザは、数年以内にほぼ全ての国民が感染し、以後は通常の季節型インフルエンザになっていくと予想されている。
 
 ◎地域ごとの対応を
 さて、新型インフルエンザの対応であるが、国内発生早期と後半期では対応が異なる。早期には、爆発的な流行拡大を避け、対応に要する時間稼ぎをするために封じ込めが目標となる。
 そのためには、患者の隔離(入院あるいは自宅療養)、発熱電話相談や発熱外来の開設、感染者家族へのタミフル予防投与、学校閉鎖、場合によりさまざまな施設の閉鎖が必要になる。
 その後感染者が増えて来た段階で、通常の季節性インフルエンザと同程度の対応となり、その段階では一般の診療所でも診療するようになる。この時期には、多くの感染者の中から重症になりそうな感染者を見つけて迅速に適切な治療をすることが重要となる。
 さて、その対応であるが、流行状況、人口密度、医療資源、人や物の流れなどの要因で、地域、地域で大きく違ってくるのは当然である。医療と行政の連携、そしてマスコミを通した適正な広報が重要な鍵となる。
 マスコミには人の耳目を引ければ成功という報道は是非改め、真摯に正確な情報を伝えて欲しい。行政には抗インフルエンザ薬の安定した供給と、ワクチン製造に力を入れて欲しい。一般市民には、過剰に恐れ過ぎず、軽んじ過ぎず、正確に情報をとらえていただきたいと思う。
 そして医師は、まっ先に感染者になる危険が高い立場にあるので、感染予防には十分注意しながら、医療や予防活動のリーダーとして活躍していただきたい。(副会長・柳川洋子) 

■群馬保険医新聞2009年6月号