【論壇】ビスフォスフォネート系薬剤について

【2009. 7月 24日】

【論壇】

 ●ビスフォスフォネート系薬剤について
   患者の利益を優先した共通認識が必要

                     歯科会代表 清水信雄

 
 ◎重篤副作用疾患
 骨粗鬆症およびガンの骨転移、ベーチェット病等の治療薬として、ビスフォスフォネート系薬剤(以下、BP系薬剤と略す)の投与が一般的に行われている。
 BP系薬剤には、骨の代謝を抑える作用があるほか、がんの骨転移による骨壊死を防ぐ働きがある。なかでも骨粗鬆症の患者に対しては、骨折に対する予防投与もごく日常的に行われているようである。
 最近、歯科分野ではBP系薬剤投与下の患者において、抜歯や口腔粘膜の潰瘍による骨髄炎、歯科インプラントの予後不良等の報告が注目されるようになった。
 これらは、ビスフォスフォネート系薬剤関連顎骨壊死、および顎骨骨髄炎(以下、BRONJ等)に関連する症状とされている。すでに日本歯科医師会、日本口腔外科学会、さらに製薬会社は、これに関するパンフレットを作成し歯科医に注意を喚起している。厚労省も5月、「ビスホスホネート系薬剤による顎骨壊死」として、「重篤副作用疾患別対応マニュアル」を正式に公開した。
 内科的に優れた薬剤が歯科では重大な副作用があるという事実は、一般の人々にはもちろん、内科医らにもいまだ十分に周知されていないようである。
 そこで保険医協会歯科会では、今年3月、有志が「BP委員会」を立ち上げた。医科歯科一体を謳う協会ならではの活動として、会員へのBRONJ等に対する認識の周知、さらには一般の人々への啓蒙をはかり、BP系薬剤による歯科での事故や、予後不良例の発生を防止し、患者のQOLの向上に努めたいと考えている。
 まだ発足したばかりだが、本紙上でBRONJ等の関連情報を連載してきた。また、患者向けの院内ポスターの作成も考えている。

 ◎騒ぎすぎ…と製薬会社
 製薬会社によっては、医師向けに「BRONJ等は騒ぎ過ぎ」ともとれる内容の講習会を行っているケースもある。医師と歯科医師とで、BP系薬剤に対する認識に少なからず違いもあるようである。
 BP系薬剤の使用を決定する段においては、医師の判断が大きなウェイトを占めていることは事実である。ここで重要なことは、その投与が患者のメリットにつながっているかどうかを原点に立ち返り謙虚に考えることではなかろうか。
 高齢者にとっての大腿骨骨折は、その後の寿命に関わる重大な疾患である。エビデンスに基づき、適当なBP系薬剤を投与することは当然必要である。その一方で、いわば「とりあえず投与」を行っていることはないだろうか。
 ひとつの例として、消炎目的の投薬に際し、我々(医師・歯科医師とも)はセットメニュー的に抗生剤の「とりあえず投与」を行うことがある。
 もちろんこれにも慎重な姿勢が必要であるが、とりわけBP系薬剤では、その後の歯科処置の予後に影響を及ぼしたり、処置自体が回避される可能性が生じる。
 似たような例で、血液の抗凝固剤を服用している患者の抜歯の際に、抗凝固剤の投与を中止するか、あるいは投与を続けたままで行うか、という問題がある。現在はよほど重篤な症状がない限り、投与を続けたまま抜歯するというのが一般的なようだ。
 
 ◎利害が相反する?
 抜歯という侵襲がどの程度か内科医にはわかりにくく、抗凝固剤の影響がどの程度か歯科医にはわかりにくい。抜歯のためとはいえ、投与を中止して血栓による症状が現れれば、内科医の立場が不利になる。一方で、投与したまま抜歯して止血が困難になった場合、今度は歯科医の立場が危うくなる。
 歯科医が内科医に投与の可否を尋ねれば、利害関係から考えると、投与を続けるべきという判断が下ることは容易に想像できる。もちろん、エビデンスに基づいて判断されるケースを否定しているものではない。
 BP系薬剤は、いったん投与されると体内に蓄積されやすい薬剤のため、抜歯等を行う際には長期にわたりBRONJ等のリスクが高まる。この点、抗凝固剤の場合よりかなり厄介である。
 医師・歯科医師ともに、患者にとってのQOLを第一に考えなくてはなるまい。

 ◎BP剤投与前に歯科治療を
 ちなみに、BP系薬剤の添付文書には、歯科または口腔外科で治療する際の注意点として以下が記載されている。

(1)歯科処置の前にBP系薬剤が投与されていないかを確認すること
(2)投与している場合には、侵襲的歯科処置をできるだけ避けるか、患者の状態とリスク因子を十分考慮し判断すること
(3)口腔内を清潔に保つように指導すること

 BRONJ等が発症しても対処が困難な現時点で、歯科医から内科医、整形外科医らにお願いしたいのは、対象患者に歯科治療の必要性がある場合は投与に先立って抜歯や外科的処置、口腔衛生状態の改善をはかるよう、患者にアドバイスしてほしいということである。これを是非とも行っていただきたい。
    *
 今後さらに高齢化社会がすすみ、骨粗鬆症患者は増加の一途をたどると思われる。現時点で不明な点が多いBRONJ等であるが、これを危惧するあまり必要な歯科治療をやめてしまったり、必要なBP系薬剤の投与を差し控えることのないように、製薬側、許認可側、投薬側、そして処置側すべてが保身に走らず、互いに意思疎通をはかることが重要である。患者にとって最大の利益をもたらす医療を目指したい。(副会長)
■群馬保険医新聞2009年7月号