【診察室】
整形外科領域の超音波検査
高崎市吉井町/飯塚外科医院 飯塚久晴
◎はじめに
病院ではいろいろな検査がおこなわれますが、その中でも簡便で侵襲の少ないものとして超音波いわゆるエコー検査があげられます。従来も腹部臓器(肝臓、腎臓など)にはきわめて有用な検査であり、その機器は内科診療所に必須といえます。10年ほど前より国内メーカーを主として表在エコー(周波数8~15メガ)の技術が格段とあがり、皮下軟部組織、骨、軟骨、細血管、神経などが詳細に描出されるようになりました。その後、秋田大学の皆川先生ら整形外科領域における超音波診断学の先駆者の実地講習がおこなわれるようになり、整形外科開業医の間にも臨床応用されるようになりました。
私も7~8年前より乳児検診で先天性股関節脱臼のチェックの際、海外の古い文献を頼りにポータブルエコーを使って診断していたのですが、5年前に皆川先生の講習をうけ、さらに進化した超音波装置を導入しましたところ、小児股関節のみならず、あらゆる整形領域に利用できることがわかりました。このことにより、診断レベルの向上のほか、被爆という副作用をもつレントゲン撮影を減らすことができ日々有用性を感じています。まだ装置が高価ですが、この分野は明らかに技術の進歩が早く、今後数年で家庭電器製品のように現在の半額ぐらいになるのではと思っています。
◎具体的臨床応用
その1 先天性股関節脱臼;3~4ヵ月整形検診で股関節の開排制限、下肢長差などが認められますと従来はレントゲン撮影となったわけですが、エコー装置があればその場で十数秒の短時間で画像による診断が可能です。操作に慣れるのに1~2ヵ月かかりましたが、脱臼の有無のほか臼蓋形成不全、骨頭核の出現スピードなどもわかり、集団検診であるなら極めて有用な道具になると感じました。
その2 皮膚皮下腫瘤;アテローム、皮膚腫瘍、皮下軟部腫瘍、ガングリオン、滑液胞炎など整形外科の外来で頻繁に遭遇する疾患でも威力を発揮します。腫瘤の局在、0.1㎜単位での大きさの測定、周囲血管や栄養血管の有無、被膜の有無などがわかり、悪性度もある程度予測できます。ガングリオンなどは発生由来が関節なのか腱鞘なのかもわかり、手術の際に切除範囲をきめるのに有用です。患者さんにお見せしながら説明しますと理解と安心感をあたえられるようです。
その3 皮下異物;木のトゲ、金属片、砂粒などかなり小さいものでもエコーで見つかります。細くて画像化できない場合でも周囲の膿瘍や瘢痕は写るため除去手術の決定に有効です。患者さんがトゲを刺した記憶がなくとも検査で明確に写ることも多く、説得力をもって手術をお勧めすることができます。
その4 関節水腫または血腫;膝関節では触診によると4~5ml以上液体が貯留していないとわからないのですが、エコーであれば2~3mlの生理的分量も検知できます。またエコー輝度により血腫の性質、たとえば粘性とかコアグラの繊維化を判断できます。
その5 成長期のスポーツ外傷;少年野球での肘の痛みはかなり高頻度で、なかでも離断性骨軟骨炎という病態は生涯の野球に大きな影響をあたえます。この疾患では早期のレントゲン写真には変化なく見逃される事も比較的多いのですが、エコーであれば骨端軟骨の不整像を確認することにより早期診断より早く判定でき、すなわち予防的に投球量を減らすよう指示できます。くりかえしになりますが、被爆がないため繰り返し検査ができフォローアップにも適します。
皆川先生のグループは少年野球チームの練習場にポータブルエコーを持ち込み全員検査したところ、症状のない少年の肘に病的エコー所見を多数認めたとのことです。単に痛いから休んで痛みがなくなったら練習再開するというより、はるかに計画的にトレーニングプログラムを作れると思います。軟骨の表面の形状や厚み、さらには骨端核の骨化状態を把握できるところが成長期の関節に対してのエコーの有利性です。
その6 骨折や軟骨骨折;肋骨骨折や靭帯付着部剥離骨折はレントゲン写真に写りにくく、診断しにくいためヒビといったり部分骨折といったり曖昧な表現をしてきましたが、エコーにより微小な骨折を画像化できる場合も多々経験します。話はそれますが傷害保険の約款に使われることも多い“部分骨折”の定義をかえないと受診した病院により診断が変わることもあると思われ、整形外科にエコー装置が常備されますと約款も変えないと不合理になるかもしれません。
その7 靭帯損傷;足関節の捻挫では種々の靭帯が様々なレベルで損傷します。靭帯の付着部ではがれたり、中央部で繊維の断裂が起こったりします。その変化をエコーではそのまま繊維断裂を写したり、出血所見として示します。ストレスをかけますと靭帯の緊張の程度もみえます。撮像のテクニックは多少トレーニングが必要のようですが、各関節に応用できるので全身の関節を診る整形外科医には上達する機会が豊富と思います。
その8 腱鞘炎;教科書的には手掌の部分で腱鞘が腫れて痛みやひっかかりを生じるとされていましたが、エコーでみますと腫れているのは腱そのもので、腱鞘は硬くなっているものの肥厚しているように写りません。このことは講習会で教えてもらったことですが多数の腱鞘切開手術をした時の所見と全く一致し、解剖で研究された病態と生体検査との違いを感じました。
その9 エコー下穿刺;従来腫瘍の穿刺の位置確認に使われていましたが、ベーカー嚢腫などの液体を内包する嚢腫の穿刺、吸入の際も有用です。針を安全な位置にコントロールしつつ吸入しますと、取り残しなく液体を除去できます。ガングリオンの穿刺の時も近傍の神経血管をさけられ安全性が増します。
その10 筋部分断裂;いわゆる肉離れはスポーツ外傷で多いものですが、エコーで筋繊維の断裂、血腫、2種の走行の異なる筋の移行部での剥離型の筋損傷(繰り返しやすい肉離れ)が判別できます。その後の骨化性筋炎の石灰化も診断可能です。
その11 肩関節疾患;私は肩関節疾患を診させていただく機会が多いので肩にエコーを多用します。50肩といわれた方でもほとんど腱板の損傷や関節内水腫を認め、50肩の従来の曖昧な定義とあわないと感じつつ日常診察をしています。検査機器の進歩に伴い医学書は書き直される宿命にあると考えます。また肩に石灰が沈着して激痛をだす疾患があるのですが、この場合もレントゲン室へ往復し衣服を脱ぎ着する苦痛を与えずに、診察室で即座にエコーをあて石灰の存在と位置を確認し、そのまま石灰を穿刺するというスピーディな診療が可能です。
◎おわりに
以上エコー検査の長所ばかりあげてみました。欠点としては検査機器が高価なこと、手技にトレーニングが必要なこと、体内深部は解像度が低いこと、骨や腸内ガスの後方は撮像できないことなどがあげられます。しかしながら超音波診断装置は触診技術やレントゲン検査とくみあわせれば、より正確に、スピーディに、低コストで整形外科診療がおこなえる重要な道具と考えます。数ヵ月後にもっとすごい装置が発売されないことを祈ってこの投稿を終えます。
■群馬保険医新聞2009年7月号