働きやすい病院とは ―黒沢病院の試み―
医療法人 社団美心会 理事長 黒澤 功
◎黒沢病院の概要
当院は、昭和52年12月に高崎市中居町に病床数七床、透析病床数10床のクリニック「黒沢医院」としてスタートし、昭和60年に「黒沢病院」(病床数43床、透析病床数20床)となりました。その後増床して、現在は病床数98床、透析病床数43床となり、今年で開院32年目となります。
現在の職員数は約400人で、常勤医師が21人、看護師が69人、准看護師が37人います。医師や看護師不足が叫ばれている中、当院は恵まれた状況にあるといえます。
職員全体での男女比率は男性2に対し女性5と、圧倒的に女性が多い職場です。一般の企業では結婚や出産を機に退職してしまう女性も少なくありませんが、女性職員の比率が高い当院では、それをどうやってつなぎとめるかが経営を大きく左右します。そのためには、仕事と家庭が両立できる職場環境作りが必要ですが、なかなか容易なことではありません。
医療費削減のあおりを受け、どこの医療機関も非常に厳しい経営状態が続いていますので、どうしても経費節減の方向へ行きがちです。しかし、安心して産休に入ってもらうためには、それなりに余裕を持った人員体制が必要ですし、託児所の運営も福利厚生と割り切って考えているにせよ、利用する職員が増えれば増えるほどスタッフも増やさなければならず、費用がかさみます。目先のことだけを考えていたらとてもできるものではありません。
〈現在の託児所利用状況〉
平成21年7月統計
利用者数…延べ131人
託児所利用料徴収額…23万1000円
人件費(保育士の給与)…43万2023円
託児所での食事風景
◎看護師不足の危機に直面して
今でこそ7対1看護をとっている当院ですが、ここまで来るのに決して順風満帆だったわけではありません。平成18年の診療報酬改定により看護師の配置基準が変更され、7対1実現のために大学病院をはじめとする規模の大きな病院が一斉に看護師の大量募集をかけたため、中小の病院は大きなダメージを受けました。当院も例外ではありません。他の医療機関に勤めた経験のない若手職員は特に大病院志向が強く、ようやく一人前に育て上げた看護師たちが次々と転職していく事態にみまわれました。
一度看護師が減りはじめると、残された職員は今までよりも少人数で同じ仕事量をこなさなければならないため、負担が大きくなり離職に拍車がかかります。こうなるとまさに「負の連鎖」で、病床数を減らしたり、最悪の場合、閉院に追い込まれた医療機関も多くあったと思います。
わたしはこの事態を打開するため、職員満足度調査を実施し、その結果を踏まえ、次のような策を講じました。
〈夜勤手当の見直し〉
職員の離職に歯止めをかける最も即効性のあるものはやはり「賃金の増額」であることは間違いありません。インターネットの求人サイトなどから他院の給与条件を調べ、夜勤手当や当直手当を群馬県内で最も高い水準に引き上げました。これによりようやく離職に歯止めがかかりました。
〈看護師の負担軽減策〉
当院には薬剤師が14人います。これは98床の病院としてはかなり多いのですが、当院では安全管理の面と看護師の負担軽減を図るために病棟での薬剤の管理(在庫管理・ミキシング・与薬の準備など)は平成6年から全て薬剤師が行っています。
また、入院患者の朝の採血と人間ドック・健康診断の採血は臨床検査技師が行っています(現在は看護師数が充足したので朝の採血は看護師が行っています)。
〈ホームページの活用〉
自院のホームページの求人欄を強化すると共に、出来る限り看護師の求人のリンクを張り巡らす努力をしました。ホームページにはできるだけ楽しい職場であることが伝わるような写真を使い、当院で働く看護師の生の声も掲載しました。
〈復帰支援の教育体制〉
看護師の免許を持ちながら、結婚や出産により看護師の仕事から離れてしまっている方たちが安心して職場復帰できる教育体制づくりを行いました。
〈職員の適性配置〉
子育て中の方の場合、午前のみ勤務可という方は大勢います。そういった方には主に外来で働いていただき、フルで働ける方には病棟勤務をしてもらう等、それぞれの家庭の事情に合わせた適性配置を心掛けました。
〈魅力ある上司〉
退職する原因の一つに、上司に対する不満があります。当院では専門のコンサルティング会社と契約し、多くの費用をかけ、徹底した幹部教育を行いました。
このような努力の甲斐あって、徐々に看護師数が増え、13対1から10対1へ、そして7対1にまで看護師を増やすことができたのです。
◎第三者評価の認証取得の意義
当院は開院当初より「利用者第一主義」を掲げ、地域貢献に邁進してまいりました。しかし、自分ではやっているつもりでも、本当に実現できているのかどうか、それを第三者の公平な視点で評価していただけるのが「第三者評価」の意義だと思います。平成10年に病院機能評価の認証を取得し、平成13年にISO9001:2000、平成17年には人間ドック・健診機能評価とプライバシーマーク認証取得も実現させました。
しかし、当院が目指す「最高の総合医療サービスの提供」を実現させるためには、そこで働く職員のモチベーションも高める必要があります。そこで、平成20年のISO品質方針に「活力に満ち、働きがいのある職場を目指す」という一文を加え、イージェイネットの「働きやすい病院評価」(注)の認証取得をめざしました。
*編集部注/イージェイネット=特定非営利活動法人・女性医師のキャリア形成・維持・向上をめざす会。その主たる活動が「働きやすい病院評価」事業で、認定第1号は大阪厚生年金病院だった。黒沢病院は認定第11号になる。
◎全職員の将来のために
私は開院当初から「これからは予防医療の時代」という考えをずっと抱いており、それを具体化することが長年の夢でした。この度、その夢を現実のものとすべく、新外来棟「黒沢病院附属ヘルスパーククリニック」を建て、7月1日にオープンしました。
地域の皆様に健康になっていただきたいという思いと同時に、職員全員がこれから先ずっと安心して暮らしていける経営基盤を作っておきたいという思いが形になりました。 私にとって職員は家族同然、彼らの将来のこともしっかり考えてやることが私の務めだと思っています。
■群馬保険医新聞2009年9月号