【診察室】PET(FDG-PET/CT)検査のミニ知識

【2009. 10月 19日】

PET(FDG-PET/CT)検査のミニ知識
 高崎PET総合画像診断センター 行廣 雅士

◆ はじめに
 PET検査が2002年4月に保険適用となってから日常診療での利用が徐々に増えてきていますが、CTやMRIなどと比べるとまだまだ認知度が高いとは言えないようです。今回はこの検査について紹介したいと思います。
 
◆ 変遷
 PETとはpositron emission tomographyの略で、陽電子放出核種で標識した化合物(トレーサー)を体内に投与し、その集まり具合を見るために専用の装置で撮像するものです。研究段階からさまざまなトレーサーが開発され、血流や代謝(酸素、糖、アミノ酸など)、受容体など生体の機能的な活動を画像化し、定量化する試みがなされてきました。その中の一つで最も代表的なものが18F(フッ素18、半減期110分)で標識したFDG(フルオロ・デオキシグルコース)です。ブドウ糖代謝を反映したトレーサーで、その性質を利用して臨床診療においては悪性腫瘍の検索目的に使われることが圧倒的多数を占めています。

 意外に知られていない事かもしれませんが、FDGは日本人により開発された薬剤です。1976年に井戸達雄博士が脳の画像を撮像したことに始まり、その後悪性腫瘍においてブドウ糖代謝が亢進していることが注目され、PET装置の進化とともに腫瘍製剤としての使用が主流となりました。

 今日clinical PETとして使われるようになるまでに、放射性薬剤の開発・進化と共に撮像装置の進化は必要不可欠なものでした。脳や心臓といった局所用から全身用へと撮像範囲が広がり、2003年末にはPET/CTの使用が日本でも認可されました。PET単体の撮像装置に比べ、撮像時間が大幅に短縮され、CT画像とPET画像を位置ずれ少なく重ね合わせることができるようになったことが診断精度向上にも寄与しています。これにより現在臨床で使われる撮像装置の主流はPET/CTとなっています。

 FDGについては2005年にデリバリー製剤の保険適用が認可されたことで、FDG製造に必要なサイクロトロンを持たない施設でも骨シンチやガリウムシンチなどのように撮像装置があれば検査可能となり、コストとリスクを抑えた形でPET検査が出来るようになったことは、PET/CTの登場と相まって、臨床診療への普及にとって大きな追い風となりました。
 このような経過を辿り、今日診療の現場でPET検査と言えばFDGをトレーサーとして使い、PET/CT装置により撮像される方法(FDG-PET/CT)が、最も一般的なこととなりました。
 
 ◆何に役立つのか?
 臨床的に検査対象の主流となっているのは腫瘍です。悪性腫瘍ではブドウ糖代謝が亢進することが多く、FDGが強く集まることでコントラスト良く病変を描出できます。FDGが集まっていればそれが全て病変であるかのような誤解があるかもしれませんが、FDGはブドウ糖代謝を反映したトレーサーですので正常の組織にも取り込まれます(図1)。脳には生理的に強い集積が見られ、腎や膀胱には尿中に排泄されたFDGの溜まりが認められます。条件次第で心筋や骨格筋、子宮内膜、卵巣、褐色脂肪などにも強い集積が見られることがあり、腸管には特に原因がなくてもさまざまな程度に集積します。正常あるいは生理的なFDGの集積分布を熟知し、その上で異常な集積かどうかを的確に判断することが大切です。
pet150.bmp (図1)正常例(MIP)

 ブドウ糖代謝は正常組織でも良性腫瘍や炎症性病変でも行われている非特異的な細胞活動です。ブドウ糖代謝亢進が細胞活性の亢進を反映していることは容易に推測されますが、それが必ずしも悪性腫瘍を意味するものではないことには注意が必要です。また、全ての悪性腫瘍でブドウ糖代謝が亢進しているわけでもありません。集積の程度により良悪性の鑑別が出来ることはありますが、実際にはCT画像上の形態的変化と併せて総合的に判断することになり、それでも区別が困難であることも多いのが現実です。

 FDG-PET/CTが威力を発揮するのは、病変局所の状況や鑑別診断についてということにも増して、リンパ節転移や遠隔転移の検索(病期診断)、治療後の効果判定や転移・再発の検索といったように、全身にわたって広く病変を検索することに主体があるのです。

 FDG―PET/CT検査の対象として現在12種類の腫瘍が保険適応の対象となっています(頭頚部癌、肺癌、乳癌、食道癌、転移性肝癌、膵癌、大腸癌、子宮癌、卵巣癌、悪性黒色腫、悪性リンパ腫、原発不明癌)。更に転移性肝癌、膵癌、原発不明癌を除いては既に診断名が確定した上で「他の検査、画像診断により病期診断、転移・再発の診断が確定できない患者」と条件付けられています。造影CTやMRIなど他の検査と組み合わせ、FDG-PET/CT検査を効果的に利用して頂きたいと思います。
 
 ◆症例提示
 FDG-PET/CT検査が役立った症例を紹介します(図2)。50歳代、女性。子宮体癌で手術を受けましたが、その一年後くらいよりCA19-9の上昇傾向があり(検査直前で70U/ml)、再発・転移が疑われました。造影CTでは指摘困難でしたが、FDG-PET/CTでは右内・外腸骨静脈の合流部付近の限局した範囲に異常集積がいくつか見られ、それらに相当してCT上微小な結節が確認できました。リンパ節転移と診断し、その後放射線照射が行われ、CA19-9は正常範囲内になりました。治療後の再検査でも異常集積の消失が確認されました。
 微小ではあっても通常では見られない部位に比較的明瞭な集積が認められたため、容易に病変として認識できた症例で、FDG-PET/CTの特長が良く活かされた症例でありました。
 pet250.bmp

(図2)微小なリンパ節転移が検出された子宮体癌術後症 
    例(左;腹部MIP、右上;PET、右下;CT)

 ◆おわりに
 悪性腫瘍を主たる対象としてここ何年かで日常診療に浸透してきたPET(FDG-PET/CT)検査についての概略を簡単に解説してみました。ブドウ糖代謝という明確な集積機序に基づきユニークな特長を有するこの検査では、広範囲にわたって感度良く病変を捉えることができ、思わぬ病巣を拾い上げることも少なくありません。また、詳しい臨床情報が添えられることで、一歩踏み込んだ解釈ができることもあります。しかしながら一つの検査であらゆる病変を見つけられるわけではありません。各種検査と組み合わせ、診断精度向上のための一つの有力なツールとして活用して頂きたいと思います。

 ■群馬保険医新聞2009年10月号