家族がいるから 仕事も頑張れる
…これは夢でしょうか
富士重工業健康保険組合総合太田病院 小児科
棗田(なつめだ) と も
今年3月、横浜市立大学と米国食品医薬品庁(FDA)共催の国際学術ワークショップに参加する機会がありました。「生物製剤の開発と新しい治療法のためのバイオマーカー」をテーマに、その分野で著名な先生方やFDAの審査官など計6名が演者及び座長として海外から招かれていました。
ワークショップの内容もさることながら、私が最も強く感じたことは、招待されたドクターの半分が女性であるということでした。医学や科学の分野で世界的に活躍する女性がいることに感銘を受ける一方、これが外国で開催された場合、日本を代表して講演する人の中に果して何割の女性が加われるだろうかと思いました。現に、海外からのゲストのほか12名の日本人が演者および座長を務めましたが、すべて男性でした。
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勿論、日本の医療現場で活躍する女性医師は少なくありません。子育てをしつつ多くの業績を残している方もきっといることでしょう。しかし、身近で活躍している女性医師は不思議と独身であったり、夫婦別居状態であったりで、「家庭を持つことや維持することを犠牲にして仕事が成り立っているのではないか」と感じられることが多いのです。
私自身は未婚ですが、これまで日常診療の上で性別のハンディを感じたことはありません。小児科という女性の特性を生かせる職場にいるためか、「女の先生の方が話しやすくて良かった」と言っていただける場合もあって、男性よりむしろ有利ではないかと思うこともあります。勿論、楽なことばかりではありませんが、仕事に充実した毎日を過ごしています。また、医師を目指そうと決めて以来、歩んだ道に迷いを生じたことが一度もないのも幸せなことだと感じています。
しかし一方、結婚を意識したとき、家庭と仕事の両立に関し、「いかに仕事を減らせるか」「周りに迷惑をかけず仕事をやめられるだろうか」「将来、子供を授かって仕事を中断した場合、その後どのように現役復帰し、育児と仕事をいかに両立させるか」など、家庭のためには仕事を犠牲にせざるを得ないことを前提に考えてしまいがちです。
本来は家族がいるからこそ仕事を頑張ることができる、仕事を頑張るから家庭をもっと豊かにできる、というのがあるべき姿ではないでしょうか。これが成り立つには、育児に専念すべき時は仕事の中断が可能であり、本格的に仕事に戻りたい時は復帰できるという体制が職場に整っていることが大切です。
そして能力に応じてライフワークの研究が続けられ、その成果によっては国際会議に招かれることがあって然るべきです。女性の国会議員が増えつつある今日、医学・医療の領域では表舞台に立てる日本人女性は極めて少ないのが現実で、海外先進国に比べ日本人の女性であるが故の大きなハンディを背負わされていると感じています。
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国会議員のような特殊なケースは例外として、仕事と家庭の両立は医療従事者に特有の問題ではないと思います。男性の育休制度がある会社においても、実際は育休を取ることで出世が阻まれる場合があると聞きます。子育て支援とは名ばかりの落とし穴があるのでは、少子化を止めることはできません。
性別・職種・年齢を問わず、安心して家庭と仕事が両立できるよう支援すれば、女性の能力をさらに伸ばし、社会全体で活用でき、医療・介護・保育・幼児教育、あるいはより広い分野に新たな産業と雇用が産まれ、日本経済全体の活性化・再興に繋がると思います。
■群馬保険医新聞2009年10月号