【論壇】新型インフルエンザ 感染症対策は正確な情報公開から 

【2009. 11月 25日】

感染症対策は正確な情報公開から
 
 新型インフルエンザ                            
 10月末、日本での新型インフルエンザ患者の発生が一週間で100万人を越えた。マスコミはインフルエンザに起因する死亡者を一人ひとり報道し、「新型」に対する恐怖感を煽る。国民は「新型ワクチン」を打ってもらえないことにおびえている。

 しかし、そもそも「新型インフルエンザ」とは、5年ほど前からアジアを中心に発生していた、人間に感染する高毒性鳥インフルエンザ(H5N1)を想定していたのではないか。当初の、国内への広がりを防ぐ「水際作戦」の是非には触れないとしても、死者が一人出るたびに「新型で死亡」がニュースになること自体に問題の深刻さがある。

 国立感染症研究所の報告を元に厚生労働省が公表している超過死亡者数(インフルエンザ流行状況を加味して修正したインフルエンザによる死亡者数)は、季節性インフルエンザでも、2000年以後毎年一万人前後である。50人に一人が死んだスペイン風邪、200人に一人が死んだアジア風邪と比較するまでもなく、季節性インフルエンザの2000人に一人と比較しても、新型インフルエンザは決して毒性が高いとはいえない。

 優先度を決めたワクチン接種の作戦は的を射たものだと思うが、ローリスク群でもワクチンの順番が遅いことにおびえる必要はないと伝えるべきである。インフルエンザを怖いものとして描き出すマスコミと、正確で納得できる情報を流さない政府の責任であろう。
 
 ●ワクチンは効くのか
 ワクチンの有効性についても正確な情報提供が必要だ。ワクチン接種後の血液検査で、70~80%の人の抗体価が上昇したから有効というのでは現場の感覚と乖離している。

 インフルエンザウイルスは咽頭粘膜に付着し直ぐに増殖を開始するため、血中抗体は予防としては期待できない。ウイルス感染細胞を排除するための細胞障害性T細胞活性を誘導する効果も無いので、感染予防に期待がかけられない。正確な情報といっても、専門家や臨床医の間でも有効性・有用性についての意見の相違があり、まとめる努力が求められていると思う。

 私が指導医から学んだのは、ワクチンの有用性は、疾患特性(重症疾患、治療手段の有無)、有効性、副作用などを総合的に判断して考えるべきということである。インフルエンザは、一般的には死ぬ病気ではないこと、罹患した時の薬物療法も一定確立していること、死亡事例やギラン・バレー症候群など重大な副作用も無視できないこと等を考慮すると、ハイリスク患者などへのより限定した使い方をすべきではないかと考える。

 肝心なのは、ハイリスク患者への充分な医療体制、例えば介護施設に入所している老人に対しても、インフルエンザの検査・治療に関しては医療保険を併用できるようにすることなどだと思う。
 
 ●大流行を防ぐには
 予防に関しては、感染を防ぐための日常の注意と、自分が発症した場合に他者への感染を防ぐための行動について情報を提供することが肝要である。

 根拠の無い一般社会におけるマスク着用や、有害でさえありうる消毒薬を使ったうがいなどが放置されている。正しい情報が提供されていれば、マスク不足といった社会現象はなかったに違いない。

 最近、感染拡大を防ぐための「咳エチケット」は普及してきたが、それとともに、発病していても仕事を休めない職場環境や、毎年インフルエンザが流行する季節にも学校行事を組むなど、社会のあり方にも目を向ける必要があるだろう。

 どのようにしたら大流行を防げるか。これは臨床医が検討を急ぐべきだ。「前橋レポート」や「MMR副作用の告発」で誇るべき実績のある前橋市医師会の活力にも期待したい。
                                            (理事・深沢尚伊)

■群馬保険医新聞11月号