【診察室】子宮頚がんとHPVワクチン 

【2009. 11月 25日】

子宮頚がんとHPVワクチン

前橋市・いえさか産婦人科医院 家坂清子

 厚労省は10月16日グラクソ・スミスクライン(GSK)の子宮頚がん予防ワクチン「サーバリックス」を正式に承認した。ハイリスクHPVとされる16型と18型の感染を予防するワクチンで、12月発売予定。民主党はマニフェスト(医療政策詳細版) でHPV任意接種の助成制度創設を謳っているが、ワクチンの正式承認を受けた関係学会等は、11~14歳女性への優先的接種と無料化(公的負担)を求め声明を発表した。(編集部)

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 三十数年前、産婦人科医になって最初に看取った患者さんは、28歳の子宮頸がんの女性でした。8歳と5歳の娘さんを残して、旅立たれました。

 当時の私自身と年齢が近かったこともあり、その末期の日々は、未だに忘れられない強烈な思い出として残っています。
   
 日本人の死因は、1981年以来ずっと、がんが第1位の座にあります。そのがんを薬で予防することができたら、どれほど喜ばしいことか。そんな夢のようなことが、婦人科領域で起きようとしています。

 ヒト・パピローマウイルス(HPV)感染を予防するワクチンの登場です。

 HPVは、性交経験者であれば、その約8割に感染既往があるといわれるほどに身近なウイルスです。
 

 しかし、感染が起きても約9割は自然消滅してしまい、持続感染として残るのは1割に過ぎません。そして、さらにそのうちの約1%ががんにまで進行するとされています。つまり、HPV感染を予防することで、ひいてはがんを予防することになるわけです。

 子宮頸がんは、乳がんに次いで多い女性特有の悪性腫瘍で、日本でも年間約8000人が罹患し、約2500人が死亡している。つまり毎日7人の女性が命を落としているということになります。

 さらに、性行動の低年齢化から発症年齢も若年化しており、日本でも数年前から20代の女性の頚がん検診が無料化される現状となっています。

 そこに登場したこのワクチンは、既に108カ国で認可されており、日本での認可が他の先進国に比してかなり遅れたのは事実です。予防医学や健康教育に対する行政の取り組みが弱いという日本の姿がここにも現れています。

 接種時期についての理想的な条件は、「11歳から14歳、かつ性交経験前」ですが、接種前の感染が自然消失するならば、それ以後の感染を予防することができますから、性交経験以後でも接種することが推奨されています。また、効果の持続期間については未だ最終的な結果は出ていませんが、現段階では約20年ほどであろうと試算されています。

 世界的に見ますと、ワクチン接種にいち早く取り組んだオーストラリアでは、2年前から政府の全額負担の下に、12歳女児全員に学校での集団接種が始まっています。また、26歳までの女性がクリニックで希望すれば、やはり無料で接種を受けられます。

 続いて英国や米国のいくつかの州などでも12~13歳の子どもたちへの接種が始まりました。
 「性行動を起こす前に予防を」ということなのでしょうが、それぞれのお国柄に合わせた子宮頸がん撲滅運動が展開され始めているのです。

 日本では、今年12月頃から、医療機関で接種することができるようになります。

 けれども、このことは、従来の頸がん検診(細胞診)が不要になるということを意味しません。実は、現在のワクチンが効果を発揮できるのは頸がんの7割どまりなので、検診を欠かしてはいけないということは繰り返し強調されなければなりません。

 医学の進歩から生まれた画期的なワクチンによって、子宮頸がんを激減させることができる日も見えてきたようです。

 私もあの若き母親の無念を思いつつ、ワクチンを手にする日を心待ちにしているのです。

■群馬保険医新聞2009年11月号