【診察室】 糖尿病の新しい診断基準とHbA1c国際標準化の流れ

【2010. 2月 18日】

【診察室】内科

 糖尿病の新しい診断基準とHbA1c国際標準化の流れ
      
                   前橋市・大野内科クリニック 大野富雄

 
 糖尿病患者は世界的に増加傾向にあり、早期診断と治療による合併症予防が急務の課題となっています。HbA1cは糖尿病診療に欠かせない検査ですが、ここでは2010年度から採用される予定のHbA1cを重要視した新たな糖尿病診断基準と、現在日本で使用されているHbA1c値が将来使えなくなる可能性があることの2点についてお話したいと思います。

 

 1、糖尿病の新しい診断基準
 2009年6月、米国糖尿病学会(ADA)と国際糖尿病連合(IDF)、欧州糖尿病学会(EASD)のメンバーからなる専門委員会において、糖尿病の新たな診断基準としてHbA1cを採用し、HbA1c6.5%以上を糖尿病と診断するとの勧告が行われました。今回の勧告の背景には、世界的なHbA1cの検査精度の向上と、合併症、特に網膜症とHbA1cとの高い特異性がさまざまな大規模臨床試験で明らかになったことなどが挙げられます。
 我が国でも新しい診断基準の検討がすすめられ、2009年11月1日に日本糖尿病学会の「糖尿病の診断基準に関する調査検討委員会」が新たな改定案を発表しました。血糖値での判断基準をこれまで通り堅持しながらも国際的な流れを受け、HbA1cをより上位の診断基準として取り入れる内容となりました。診断基準の改定が承認されれば11年ぶりとなります。改定案の内容は次の通りです。
 従来の基準にある
 (1)空腹時血糖値≧126mg/dL
 (2)糖負荷試験(OGTT)2時間値≧200mg /dL
 (3)随時血糖値≧200mg/dL 
に、(4)として「HbA1c≧6.1%」を新たに加え、この4つのうちのいずれかを満たす場合に「糖尿病型」とし、別の日の検査で再度いずれかが確認されれば、「糖尿病」とするというものです。
 HbA1c≧6.1%の根拠としては、日本人の1万例を超える検討で6.1%を超えると網膜症のリスクが増大するとのデータに基づいています。また日本でのHbA1cの測定法では、米国の方法より0.4%程度低値となるため日本の6.1%は、ほぼ米国の6.5%に相当します。学会ではHbA1cを診断基準の上位に格上げした理由として以下の3点を挙げています。
 (1)糖尿病の基本的概念である持続性高血糖は、空腹時血糖値や食後2時間血糖値では代表できず、現行の指標の中ではHbA1cが最も適切である。
 (2)HbA1cの測定は、空腹時血糖(FPG)採血や経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を必要としない。
 (3)現行の治療目標はHbA1cに基づいており、診断でもHbA1cを使った方が診断と治療の間に連続性が認められる。
 今まで、糖尿病治療目標において主にHbA1cを用いてきましたが、今後は診断においてより大きな役割を持つようになります。

 

 2、HbA1cの国際標準化の流れ
 前述したように国際的にHbA1cが糖尿病の診断、治療にますます重要な指標となっていますが、実は現在、世界には何種類かのHbA1cの測定基準があります。アメリカなどのNGSP(National Glycohemoglobin Standardization Program)値、日本のJDS(Japan Diabetes Society)値、北欧のMonoS値です。血糖コントロールと合併症との関連を明らかにした有名な大規模臨床試験であるDCCTやUKPDSはNGSP値で表記されており、国際標準となりつつあります。一方日本のJDS値はアメリカのNGSP値と比べ0.4%程度低値となります。それぞれのHbA1cには換算式はありますが、煩雑で正確な国際比較ができない欠点がありました。そこでIFCC(国際臨床化学連合)を中心としてHbA1cに関する国際標準化が進められてきました。最終的にはHbA1cの測定は国際臨床化学連合のIFCC法を基準とする方向に進んでいますが、同時に米国などで広く用いられているNGSP値をIFCC法から換算して併記することとなるようです。
 つまり現在日本で使用されているJDS値は将来的には国際的な場では使用できなくなるのです。日本でも今後の治験や臨床研究、医薬品開発研究などの面から、国際基準のHbA1cを受け入れざるを得ず、まずは今までのJDS値に新たに約0.4%高く表示される米国のNGSP値を併記して、次にJDS値をなくしてNGSP値と国際標準のIFCC値に移行する提案がなされています。
 ところで、NGSP値はJDS値と同じ%表示であるため、日本では一般臨床医や患者に混乱を招くことは必至です。そこで、日本糖尿病学会は日常臨床の場において、日本でこれまで使われてきたJDS値を「HbA1c」、国際基準となるNGSP値を大文字で「A1C」として併記し、学会や論文などの研究の場ではJDS値は使用せず、NGSP値「A1C」とIFCC値を併用するよう勧告しています。
ちなみに換算式は以下のようになります。
                                         
 NGSP(%)=1.019×JDS(%)+0.3                                
 IFCC(mmol/mol)=10.39×JDS(%)-16.8  
                          
 JDS値でのHbA1c6.5%はNGSP値では6.92%、IFCC値では50.7mmol/molとなります。
 将来的な国際基準への変更はやむをえないと思いますが、実際の現場で診療する臨床医としては、慣れ親しんだ現在の指標からなるべくスムーズに新しい指標に移行できるように学会には工夫をお願いしたいと思います。

図  糖尿病新旧診断基準    ←クリック

■群馬保険医新聞 2010年2月号