指導、監査の場での保険医の人権を守るため、全国の保険医協会では、弁護士帯同と録音に取り組み、実績をつくってきた。現在では、厚労省にも「国民の権利を守る弁護士の同席はやむを得ない」「録音も拒否しない」と、認められている。
そもそも、個別指導、監査とは何なのか。
「個別指導は、健康保険法第七三条に規定された行政指導であり、監査は、健康保険法第七八条に規定され、質問検査権が明記されているものである」。こう言われてもピンとくる医師、歯科医師はあまり多くないだろう。
簡単に違いを説明すると、個別指導は、教育的な指導の意味合いがあり、懇切丁寧に行われるべきもの、監査とは「質問検査権」が明記されているため、行政が権限を持って診療内容に介入することができ、「関係者に調査できる」とあることから事前に「患者実地調査」が行われるものである。
個別指導の運営方針として指導大綱には、「保険医診療の質的向上および適正化を目的とし、保険診療の保険請求に関する事項の周知徹底を図る」とある。複雑な保険診療や請求制度の仕組み、内容を説明し、保険医療制度への協力を確保しようとすることが本来の目的であり、診療内容や請求が保険診療のルールに沿って行われるよう、教育的観点から懇切丁寧に指導しなければならない。
九月に関東信越厚生局傘下の一都九県にある保険医協会の担当者が集まって行われた関東信越指導監査対策担当者会議では、個別指導において、指導対象の保険医に対し、医療技官や事務官による恫喝や人権侵害が発生していることが報告された。同日行われた、医師と弁護士の二つの資格をもつ、大磯義一郎氏の記念講演の中でも「個別指導はいわゆる行政指導であり、行政指導とは行政手続法二条六号から、『指導、勧告、助言、その他の行為であって処分に該当しないもの』とあり、教育的な指導であることが法で決められている」と説明があった。
当協会では、個別指導の場での不当な指導を抑制し、人権を擁護する観点で、弁護士の帯同、録音をすすめている。冒頭で述べたとおり、これらは厚労省が認めた行為であり、拒否する医療技官や事務官がいたら、断固抗議すべきだ。
指導の根拠法である「療養担当規則」にも問題がある。ルールが複雑で、解釈に誤りが生じやすい。全国共通のルールのはずなのに、各県により平均点や審査の判断基準に差異が生じ、医療技官や事務官により、指導内容が変わる。さらに地域によって異なる平均点を基準に、高点数の医療機関が指導対象に選定されている現状も改善しなければならない。
一方で私たちは、日ごろから「療養担当規則」に則った請求を行う努力をしなければならない。二年に一度、保険改定直前に開かれるたった一度の集団指導だけで、あれほど複雑なルールの周知徹底など図れるわけがない。行政には、私たちの間違いを指摘する前に、正しく理解するに十分な講習の場を設けてほしい。ルールを学ぶだけでなく、現場で感じるルールの矛盾を私たちから行政側に示せるような場が構築されれば、実態に即した指導、監査制度の運用に繋がっていくのではないだろうか。
(副会長・小山 敦)
■群馬保険医新聞2012年11月号