【論壇】予防医療と未病対策

【2013. 7月 15日】

 65歳以上の人口が24.1%(総務省2012年10月現在)と超高齢社会を迎え、医療費や介護費の増加が懸念される中、病気にならないための「予防医療」、病気になる前の「未病対策」が注目を集めている。本格的に「予防医療」に取り組む大学病院も出てきており、疾病の早期発見・治療による予防医療の推進と「未病」段階で疾患をとどめる「先制医療」を実践しつつある。

 「未病」という言葉は、およそ2000年前に編纂された現存する中国最古の医学書「黄帝内経」の中において、はじめて登場したといわれている。「聖人は未病を治す」と書かれていて、予防の重要性が既に認識されていたことがわかる。「未病」とは、「発病に至らないものの軽い症状のある状態」「半健康で、病気に進行しつつある状態」とされている。五臓六腑がつながっているという考えが根本にあり、軽いうちに異常を見つけて病気を予防するという考えだ。

 最近では、専門組織である「日本未病システム学会」が発足しており、未病の定義を「自覚症状はないが、検査で異常がある状態」および「自覚症状はあるが、検査では異常がない状態」としている。

  「未病」という言葉そのものは、東洋医学からきているが、現代西洋医学の世界でも今まさに問題とされている。それは、「生活習慣病」における危険因子が、日本人の全死因の六割を占める「三大成人病(がん・心臓病・脳卒中)」につながる「未病」そのものであるからだ。「未病」を病気に進みつつある状態と捉えるならば、早い段階で「未病」のサインを認識し、しかるべき手を打てば、その進行を抑え、本格的な病気への移行を防ぐことができる。

  「未病を治す」とは、健康であろうと病気であろうと、常に自らの生活習慣に気を配り、より本来に近い心身の状況にもっていこうとする、生き方の姿勢を表現しているといわれる。人間本来の姿を、東洋医学の世界では「中庸」と言う。健康と病気のまん中あたりのことを示し、健康すぎても、病気だらけでもいけないという表現だ。身体の状態とは、どちらか一方向への偏りがないのが一番よい、ということを意味する。私たちの身体は本来的に、治癒力・自己回復力が備わっている。それを活かす方向、もともとの生命力を十分に活かす方向に持っていくように意識し、導くことで本来の力を発揮しはじめる。未病への意識を高めることが大切となってくる。
 

 在日欧米企業で構成する経済団体ACCJ(在日米国商工会議所)とEBC(欧州ビジネス協会)は、5月31日、日本に対する医療政策の共同提言を発表した。健康寿命を延ばすことが日本経済にも好影響をもたらすとし、「予防型医療へのパラダイムシフト」を主軸に36の医療分野への提言をした。

 ACCJの調査(2011年)に基づく試算によると、病気を理由とした退職や生産力低下に伴う国内の経済的損失は、年間3.3兆円に上るという。日本の医療政策の焦点を疾病予防・早期発見に転換させることが、こうした負担の軽減や医療コストの縮減、国民のQOL向上につながるとしている。

 診療報酬体系については、発症後の治療成果を中心とした現在の報酬モデルから、患者の疾病予防や早期発見に寄与した一般開業医に報奨金を与えるといった「患者が健康で、通院しないで済む度合いに応じて報われる方式」への転換、多面的な診療ができる「家庭医」の育成と報奨金の整備、医療分野のIT投資を促進するための診療報酬や補助金の導入を示した。また、子宮頸がん検診の受診率を上げるため、国民健康法を改正することなどが盛り込まれている。
      *
 誰もが「無病」で暮らすことができる社会の実現が予防医療の理想の姿といえる。将来の疾病のリスクを減らすために欠かせないのが、疾病の早期発見につながる検査と健康な身体の維持である。これまでは、検査が重視され、健康な身体づくりは軽視されがちだったが、今後は長寿から「健康長寿」に切り替えられてゆく「予防医療センター」の新設が加速しそうだ。

(副会長・太田美つ子)

■群馬保険医新聞2013年7月号