数年前、当会理事会で「子どもの医療費無料化」について、熱い議論が交わされた。群馬県は、3歳までの無料化に始まり、就学前、中学卒業までと、子どもが病気になってもお金の心配をせずに医療が受けられる制度を全国に先駆けて実施した。県も「子育て群馬」を強く訴えていた。
当時の議論では、絶対的な安心としての無料化の主張に対して、少しでも徴収して医療費がかかっていることを意識してもらうべき等、喧々諤々の議論だった。結論としては、「子どもにペナルティーを科すべきでない」と、保険医協会として署名を持って県との懇談も行った。その後の三つ巴の県知事選挙で子どもの医療費への対応も争点になり、その成果として、親が健康保険を払い切れなくても、義務教育終了までの子ども全員に、「受給者資格証」が配布されるようになった。外来・入院共に現物給付制で実施されている。所得制限や受診時の負担がない中学生までの完全無料化は、全国でも群馬県だけの取り組みだ。
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子育ては群馬で安心してできるのか。
家庭を持って子どもも育ててゆきたいと思った時に、親の仕事への思いと同時に、費用が生み出せるか、という問題がある。医療費以上に確実に必要になるのが教育費だ。 今の日本では、一人の子どもを幼稚園から大学まで、全て公立へ出した場合でも、820万円、大学で下宿させた場合1040万円の費用がかかるとされている(平成21年文部科学白書)。これは最低でも、という金額である。
一方で、親の収入は年々減っている。厚労省「国民生活基礎調査」によると、1990年代後半、全世帯の所得中央値は、約540万円で横ばいであった。それが、2000年には一気に500万円に低下。2011年には430万円まで低下している。つまり、日本の半数の世帯は年間収入430万円以下ということだ。さらに年間所得200万円以下の貧困世帯は、同期間で13%から20%に上昇。この中には労働しているにもかかわらず、いわゆるワーキングプアと表現されることのある人も含まれている。
義務教育とされる中学卒業まで、保育園を除いても約400万円の費用がかかる。子どもたちが中学、高校を卒業する時、進学したいと希望しても働かざるを得ない状況が拡がる。
何とかして学びたい、または親として大学へ出してあげたい、と思った時の頼みの綱として奨学金制度がある。ところが、返済義務のある「貸付型」の奨学金には利子がつき、大学を卒業したと同時に、数百万円の借金を背負って社会に出て行くことになる。
どこの国もそんなものなのか。さまざまな社会・経済状態の国家間比較をする時に、検討の対象とされる経済協力開発機構(OECD)34カ国をみてみると、その半数は、大学の授業料まで無料で、北欧4カ国では入学金に相当する登録料まで一切無料である。32カ国では奨学金は返済義務の無い「給付型」があり、国の将来を担う子どもたちへの教育を重視している。さらに、授業料無償であっても低所得の家庭の学生には、生活費、食費などを補助する制度を有する国もある。
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低所得者に重い負担となる消費税が上がり、「地球温暖化対策」を口実とした軽自動車税のアップ、リストラ促進や正規雇用から派遣労働への拡大など、格差社会はさらに拡がっている。マスコミを総動員したアベノミクス礼賛で「景気回復への期待」が喧伝される一方で、生活保護世帯が増加している事実を、少なくない国民の生活が危機的状況にあることとして見られず、さらに生活苦を強いる社会。私たちは、そんな日本を子どもたちに残すわけにはいかない。取り戻すべき日本とは、どんな社会なのか、今考える時だと思う。
(副会長・深沢尚伊)
■群馬保険医新聞2013年11月号