❏保険医休業保障共済保険
2006年の改定保険業法施行以来、新規募集の停止を余儀なくされてきた「保険医休業保障共済保険」(以下、休保)が、今春七年ぶりに再開した。この間保団連は、制度内容を変更することなく保全策を模索し、再開を求めて運動を展開してきた。スタッフを有し、固定費の多い医療機関経営者にとって、休保はまさにセイフティネットである。多くの会員の署名活動等、ご協力の賜物と、この場を借りて感謝の意を表したい。
❏TPP
2012年の総選挙で、当時野党だった自民党は、「TPP断固反対、日本を耕す、ブレない」をキャッチフレーズに国民の支持を獲得した。それが与党になった途端TPP推進に躍起となっている。
医療分野で危惧されるのは、薬価の高騰による公的医療の圧迫だ。我が国の公的医療保険制度における薬価は国が決めている。しかし、これが自由化になれば、薬価や医療技術の特許期間の延長、特許薬の高価格の維持と独占的権利の強化等が懸念される。財務省の立場からすれば、他の医療費の削減を当然要求してくるであろう。
一方で、医療機器等は薬事承認の簡素化から価格が下がる可能性もある。しかし、これとて医療機関にとって必ずしもメリットとはいえない。医療費抑制勢力にとっては診療報酬引き下げの口実ともなりうるからである。
❏混合診療
6月14日、政府は「規制改革実施計画」の健康・医療分野において、混合診療の拡大方針を打ち出した。高度先進医療を必要とする患者の負担軽減がその目的の一つと捉えることもできるが、今後さらに進む社会の高齢化に伴う公的医療保険への支出抑制が最大の目的であろうことは想像に難くない。
先進医療は、安全性と有効性が認められたら速やかに健康保険に適用するのが前提であるが、「規制改革実施計画」には、先進医療を幅広く併用できるようにすると書かれているだけで、保険収載の迅速化には一切触れていないのである。
❏消費税増税
現在いわゆるアベノミクスによる「豊かさ」を実感できている国民はどれくらいいるだろう。アベノミクスはデフレ脱却、つまり物価上昇を目標の一つにしているが、増収の実感がない状態でインフレが起これば、国民の生活にネガティブに作用することは火を見るより明らかである。国際的には、消費税アップが日本の信用回復の試金石とみる筋もあるようだが、少なくともこの判断が勇み足だったという事態にだけはならないでほしいものである。
❏五輪招致と原発
2020年のオリンピックの開催地が東京に決定した。招致を決める国際オリンピック委員会総会で安倍首相は、福島の現状について、「汚染水は完全にコントロールされている」などと、事実と異なる発言をした。
震災から2年半以上経過したが、福島第一原発の事故後の処理は相変わらず遅々として進まない。汚染水は溜まる一方で処理の目途さえ立たず、住民の帰還や保障についても全く先が見えていない。
ただ、10月以降、わずかながら動きが出てきた。政府は、除染作業に国費の投入を決めた。原子力災害時の医療体制の見直しを検討し、原発周辺の住民の低線量被曝への対応として、日常的に救急医療を行う病院を「原子力災害拠点病院(仮称)」に指定し、住民の除染や治療を担うとした。東電は11月18日、福島第一原発四号機の使用済み燃料プールから核燃料の取り出しを始めた。ことが着実に進展し、問題解決の糸口が見えてくることを願う。
❏憲法改正、尖閣諸島、竹島、防衛の問題
今年はにわかに改憲の動きが起こり、日常生活ではほとんど意識しない憲法が議論された。
憲法は、権力側の権限、統治の基本原則を定めた法律である。改憲の手続きを簡素化することは、特に与党勢力が強い場合、大政翼賛的な動きに都合のいいように手直しされる恐れがあり、慎重な議論が必要であろう。
この議論は、尖閣諸島、竹島問題とも関わる。領土問題の解決は歴史的にみても難しく、それぞれに主張があり、多くの場合、その主張の根拠となる「事実」にずれがある。国際的な司法機関の力も借りながら、辛抱強く、長期的な落とし所を探るしかないのだろうか。
そんな中、安倍首相は、10月27日の自衛隊の観閲式で、国家安全保障会議の創設や集団的自衛権の行使容認などを含めた法的基盤の整備を進めていく考えを示し、「安全保障環境は厳しさを増している。訓練さえしていればよいとか、防衛力はその存在だけで抑止力となるという従来の発想は、完全に捨て去ってもらわなければならない」と述べた。防衛は必要だ。しかし、隣国との平和的友好的な関係を維持することは、防衛以上に、国を守るために重視すべきことである。ただでさえ冷え込んでいる中韓との関係下で、相手国の感情を逆なでし、我が国への警戒感を強めることのないよう、慎重な発言が求められる。
❏国家安全保障会議
11月27日、日本版NSCと呼ばれる国家安全保障会議の設置法が成立し、12月5日には同会議と一体とされる「特定秘密保護法案」が参議院の国家安全保障特別委員会で強行可決された。
日本弁護士連合会は、特定秘密保護法案に関し、「秘密保護法の基となる報告書を検討した有識者会議では、法律を作る必要の根拠として、2010年の尖閣諸島沖漁船衝突事故の映像の流出事件をはじめ、いくつかの情報流出事件を挙げているが、どれも原因究明と再発防止策がとられており、新たに秘密保護法を作る必要はない」との見解を示している。
アメリカでは、情報機関によるメルケル独首相の携帯電話の盗聴や元中央情報局職員が提供した機密文書により、情報機関が外国の指導者35人の通話を盗聴していたことが判明した。ワシントンでは市民が「国民監視はやめろ」「言論の自由やプライバシーの尊重を守れ」などと声を上げ、デモが起こった。自国の独占技術を使い、同盟国まで監視するというアメリカの姿勢は、多いに糾弾されるべきではなかろうか。
そんなアメリカからの断片情報を守るために、日本政府は特定秘密保護法によって公務員等自国民の監視を強めようとしている。「スパイ疑惑の当事者である米政府の求めに従って、日本人に秘密の厳守を義務づけ、重罰を設けようというのだ。世界の潮流に逆行しているといわざるをえない」(朝日新聞より)。
❏食品表示偽装
10月、阪急阪神ホテルズに端を発する大手ホテルの産地、食材偽装問題は、その後大手の百貨店、外食店等でも次々に偽装の事実が発覚した。車両や線路のトラブルが相次いだJR北海道も同様に、企業のコンプライアンスの欠如が招いた問題だ。日本は本来、コンプライアンスの精神に関しては世界でも評価される国民性を育んできたはずである。外食産業であれば食の安全に、公共交通機関では人命にも関わる可能性があり、決して看過できない。
医療機関でも医療安全管理について、コンプライアンス機能の徹底が要求されている。いや、医療機関の場合、人命や人の健康により直接的に関わってくる。他山の石として自らの姿勢を律していきたいものである。
(副会長・清水信雄)
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2013年を振り返ると、他にも取り上げたい出来事はたくさんあった。紙面の都合上、医療に携わる者の立場で項目を絞った。独断と偏見との誹りは甘受したい。
■群馬保険医新聞2013年12月号