【論壇】「命に関係ない歯科」から「命の源は歯科!」へ意識が変わっていくことを期待する

【2014. 3月 15日】

 今回の診療報酬改定では、消費増税を考慮した審議に注目が集まった。
 消費税は、現在の5%においても保険診療分に関しての損税が発生しており、これが8%、10%と引き上げられた場合、単純に現在の2倍となることが危惧される。
 自院の場合で試算すると、現在の5%で年間約100万円の損税があることがわかった。4月から8%になれば、単純計算で160万円に跳ね上がり、個人診療所の経営を圧迫するのは避けられない。総合病院では、数千万円規模の損税となり、現在の構図を変更しなければならないことは周知のとおりである。
 看護師、歯科衛生士の人件費などへの影響も懸念され、人手不足により過重労働を強いられ、ブラック企業ならぬ〝ブラック病院・診療所〟などという言葉が生まれてきそうである。このままでは地域から病院、診療所がなくなってしまうのではないだろうか。
 消費増税の補填分として、歯科の初診料は218点から234点へ16点(7・3%)増となった。一方で歯科訪問診療料2は、380点から283点へ25・5%引き下げられるなど、歯科訪問診療料の評価は、4月からガラッと変わってしまう。
 医療は、物品流通市場ではないことは理解しているが、「明日から技術料が25%削られます」ということが一般の社会で起これば、大混乱だろう。点数改定という国からの一方的な評価に、医療現場は納得のいかないことばかりである。
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 歯科治療は、「虫歯を削って詰める。歯を抜いて義歯を作る。命には直接関係ない」等の印象が根強い。
 当医院では、開業当時から「痛いから行く歯医者から痛くならないように行く歯医者」を理念に、診療を続けてきた。結果として、歯を削る治療は徐々に減少し、検査、診査そして歯科衛生士に指示を出すような、歯周病管理の治療が多くなった。クリニックからクリーニングへなどと表現しているが、地域患者には浸透してきている。
 2011年8月、歯科口腔保健に関する施策を総合的に推進する「歯科口腔保健の推進に関する法律」が制定され、口腔疾患が及ぼす全身への影響に対する理解は、患者、歯科医師双方に、着実に浸透し、広まっている。
 2012年、前回の診療報酬改定では、全身麻酔による手術前や放射線治療、化学療法を実施する患者の口腔機能の管理を算定する「周術期口腔機能管理」が、歯科に導入された。算定には、医科と歯科の連携が欠かせない。歯科併設の病院であれば可能であるが、歯科のない病院と地域の歯科医院の連携は、ほとんど行われなかった。全身麻酔の気管挿管時による術前のプラークフリー法を導入すると、術後性肺炎の発症は軽減するため、歯科の介入は術後の予後に影響があることは明らかなのだが、「周術期口腔機能管理」に対する医科の認知度の低さもあり、連携はなかなか進まなかった。
 今回の改定では、「周術期口腔機能管理」の強化をめざし、医科の側にもこの項目に関する評価(2項目・計200点)が新設されている。
 これらが、有効に機能するために、医科・歯科一体の団体である保険医協会の特徴を生かしたアプローチができないかと考えている。まずは、会員の診療所に「手術前の歯科受診の重要性」を示した案内を掲示してもらうことや「周術期機能管理」「口腔リハビリテーション」など、口腔の機能に関する患者の意識向上に繋がるような行動を模索したい。

(副会長・小山 敦)

 

■群馬保険医新聞2014年3月号