2012年度の概算医療費は、厚労省の発表で、38・4兆円と過去最高を更新し、ほぼ毎年1兆円増加している。
概算医療費は、2000年度から2012年度までの12年間に9兆円増加しているが、増加の内訳は、病院と調剤薬局がそれぞれ約4兆円であり、診療所は1兆円、歯科は0・1兆円にすぎない。
入院外医療費(病院と診療所の外来+調剤薬局)の増加は5・5兆円で、その内訳は薬剤費3兆円が最も大きく、調剤薬局技術料0・8兆円と合わせると、薬剤関係で7割となり、調剤薬局は2・8兆円から6・6兆円と倍増している。このことから、薬剤費増加の検討が重要になるが、厚労省の発表は、出来高部分のみの不十分なもので、入院包括医療費に含まれる薬剤費は2010年度の推計値しかなく、0・9兆円とされている。
2012年度の薬剤費は、入院外の7・8兆円、入院の出来高部分0・6兆円、包括部分の推計0・9兆円より、9・3兆円となる。薬剤費は概算医療費の24%に対して、増加部分では40%にもなり、医療費増加の大きな部分を占めることがわかる。
医療費増加については、高齢化に関連した費用増加がよく言われるが、なぜ薬剤費が増加し続けているのか。
1.新薬の高薬価構造
薬価は2年毎に改定され、すでにある薬は、消費税込みの市場実勢価格に、薬剤流通の安定のための調整幅(改定前薬価の2%)を加えた額となる。後発品のでた先発薬は、さらに4~6%引き下げられるが、後発品の最初の薬価は先発品の7割で、いずれも、その後は市場価格により下がる。この仕組みであれば、薬剤費は減少するはずだが、高薬価の新薬の売り上げが減らない。
新薬の薬価は、類似薬効比較方式、または原価計算方式により決められるが、製薬会社は、既存薬の構造を少し変えたとか、2種類の薬剤を配合したなどでも、画期性や有用性の加算をねらい、新薬の高薬価を維持しようとする。実際に、後発品のない先発薬の33%には、「新薬創出・適応外薬解消等促進加算」がつき、薬価の高止まりを招いている。新薬では外国平均価格の0・75倍以下、または1・5倍以上で、価格調整があるが、日本の薬価は海外よりも高い傾向がある。
2.医薬分業による
調剤料増加
院外処方の割合は、1951年の医薬分業法制定、1974年の処方せん料50点への引き上げ等の政策に誘導され、1980年度の3・9%から2011年度には65%まで増加している。
医薬分業の導入目的は、薬価差益に依存していた医師から調剤権を薬剤師に移し、処方料、薬剤費を適正化するとされていたが、ここ10年間、薬剤費は増えこそすれ、減少せず、削減効果は皆無である。また、後発医薬品の普及についての薬剤種類数では、2009年度において、院内処方の26%に対して、院外処方は18%と、調剤薬局の方が低い。
つまり、大半の薬剤師は、医師の処方した薬をそのまま調剤しているだけで、日本の医薬分業の実態は、患者にとっては、門前薬局まで足を運ぶ手間が増え、調剤技術料の自己負担分が増えただけのことである。
調剤薬局6・6兆円の3割は、調剤基本料などの技術料といわれるが、2兆円増加に見合ったメリットが患者にあるのか。お薬手帳などは有用かもしれないが、これは調剤薬局でなくても可能であり、調剤基本料の見直しなどが必要だろう。
3.医師の処方傾向
新薬がでると立派なパンフレットができ、医学雑誌にはたくさんの宣伝が載り、その宣伝のための講演会が増える。
年に1000億円以上を売り上げるARB降圧剤ディオバンなどは、ここ数年、医学雑誌に宣伝があふれていた。「心臓病や脳卒中を減らす」と、高血圧学会の権威を使って宣伝されたが、その臨床研究がインチキだった。
似たような作用のACE阻害剤では、心臓病や腎臓病への効果が確認されているが、空咳の副作用が少しあり、日本の常用量では降圧効果が少ない。また、後発品が出ているため、薬価も低くなり、最近は宣伝パンフレットも見なくなった。ARB降圧剤は空咳は少ないが、心臓病に有用でないにもかかわらず、新薬であり、薬価は高い。
そういう時に安くて有用な薬を処方せず、宣伝された高い新薬を処方してしまう傾向が医師にありそうだ。私自身も勤務医時代は薬価を知らず、同じ効果でも高い薬価の薬を出していたことがあった。薬剤費の自己負担は患者が払う事まで考えて、効果と薬価を比べて処方する配慮も医師に求められる。
(副会長 長沼誠一)
■群馬保険医新聞2014年2月号