群馬県保険医協会では、毎年、関東信越厚生局に対して行政情報の開示を求め、個別指導、集団的個別指導に関する選定委員会の文書や指導監査実施状況の文書を入手している。
これは本来、保険診療について懇切丁寧な指導の場であるべき個別指導で、技官などから高圧的な言動があったり、自主返還という名目で、多額の返還金を求められる事が起こりうるため、その対策の一環である。
しかし、2013年の開示請求では、個別指導の選定件数の内訳(高点数、情報提供、再指導など)が不開示になった。詳細を公にすることにより、不当な行為を容易にし、若しくはその発見が困難になり、指導、監査に係わる業務の遂行に支障を来すおそれがあるからだという。
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保険医の個別指導は、その選定理由が不明なまま、3週間前に呼び出し通知が届き、用意するカルテは、4日前と前日に指定される(新規個別指導は4日前のみ)。この指導に対して絶対大丈夫という保険医は少なく、どんな点が指摘されるかとの不安は大きくなり、指摘された内容によっては、自主返還という返還金を支払わざるを得ない事もある。
指導の場では、厚生局の数名の事務官と技官に対して、被指導者は医師一人の場合がほとんどで、医師会などの立会人はいるが、厚生局から求められた時のみ発言するだけで、被指導者の弁明のためではない。個別指導は、準備期間も短く、孤立無援の中で行われ、1993年には、富山県で技官の高圧的な言動による保険医自殺事件が起こり、その後も同様な例が続いている。
このような孤立無援の中での個別指導を防ぐため、保険医協会では、録音や弁護士帯同を推奨してきた。2007年には厚労省も、「国民の権利を守る弁護士の帯同はやむを得ない」との見解を出している。
群馬県保険医協会でも個別指導への弁護士帯同をすすめ、この4年間に6件の実績を重ねてきた。その中で、2012年の弁護士帯同時に厚生局職員は、弁護士に委任状の提出を求め、録音や発言、代理人になることを認めないとし、果ては「営業妨害、業務妨害だ」とまで言った。
これに対して、帯同を依頼された樋口弁護士の見解は、次の様であった。
「個別指導は行政指導の一つである。行政は法律によるものであり、個別指導は法律事務に該当する。法律事務の執行態様は弁護士の裁量に任されているので、帯同は弁護士の職務行為の範囲に入る」。
この厚生局職員の業務妨害という発言に対して、次の様な動きがあった。
◇2012年11月
本来の弁護士業務を「業務妨害だ」という厚生局職員の言動は、弁護士業務の妨害であるので、樋口弁護士から群馬弁護士会の業務妨害対策委員会に申入書を送った。
◇2013年6月
群馬弁護士会の業務改革委員会から樋口弁護士あてに弁護士の帯同、代理人、録音、発言の法的根拠の調査があり、樋口弁護士が回答した。
◇同年8月
群馬弁護士会から、関東信越厚生局長に対して、個別指導に関する次の様な質問書を送った。
健康保険法73条に基づく医師に対する個別指導に関し、弁護士による代理人としての1帯同、2発言、3録音の可否。
◇同年9月
関東厚生局長からの質問書の回答は、
1 弁護士帯同は、被指導者からの委任状を提出した場合にのみ認めている。
2 弁護士は保険診療について説明出来ないから、発言は認めていないし、場合によっては退席を求める。
3 録音は被指導者から求めがあり、指導内容の確認が目的の場合のみ認める。
◇2014年4月
群馬弁護士会から会長名で、関東信越厚生局長あてに出された申入書については、樋口弁護士の記事のとおり。
これと前後して8月には、日本弁護士連合会から、厚生労働大臣および各都道府県知事にあてて、健康保険法等に基づく指導・監査制度の改善に関する意見書が提出された(内容は樋口弁護士の記事のとおり)。
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保険医にとって、個別指導時の人権侵害を、医師個人、医師会、保険医協会という医療人だけで守るには限界がある。厚生局の職員、技官は、御上意識が抜けない面もあり、それに対して、人権を法律で守る弁護士の応援はありがたい。
群馬での弁護士帯同の事例から、群馬弁護士会が動き、関東信越厚生局長への申し入れをしたのは画期的ともいえる。また、日本全国で同様の例が続いているからこそ、日弁連から厚労省等への意見書が出たものと考えられる。
群馬県保険医協会では、今後も個別指導等において、保険医の人権を守り、懇切丁寧な指導がなされるような活動を行っていきたい。
(副会長・長沼誠一)
■群馬保険医新聞2014年10月号