<保険医新聞>【論壇】女性医師支援の現状

【2015. 3月 15日】

 2006年8月号の本紙で、当会前会長の柳川洋子先生が「女性医師支援の課題と現状」をテーマに論説された。その後、厚生労働省をはじめ、医療機関や都道府県、学会などの関係団体は、どのような「女性医師支援」に取り組んできたのか。いくつかの資料をもとに、考察してみたい。
 
 女性医師の割合
 出産・育児を機に低下

 
 全医師数に占める女性医師の割合は増加傾向にあり、2012年には19・7%となり、年齢層別に見ると29歳以下の女性医師は35・5%を占め、最も多い。しかし30歳を機に女性医師の割合は低下の一途をたどり、医師としての就業率は、卒後11年(平均年齢36歳)で76%と最低となった後、再び回復するMカーブを呈している。これは、他の職業女性と同様で、出産・育児が影響していると指摘されている。

 男女平等を目ざす
 2つの法律

 
 男女共同参画基本法は1999年に公布・施行され、推進が図られた。そして、2007年4月に改正された男女雇用機会均等法では、性別による差別禁止の拡大、妊娠・出産を理由とする不利益扱いの禁止、妊娠中の女性の時差出勤・休憩回数の増加、妊産婦の勤務時間の短縮などの措置を講ずることが義務化された。女性が働きやすい環境を整える必要性をとなえて、医療現場のワークバランスを守るために、いち早く職場環境改善に取り組んだ大阪病院(旧大阪厚生年金病院)は、子育て支援で有名となった。

 国による女性医師支援の
 懇談会

 
 2014年8月、厚労省は「女性医師のさらなる活躍を応援する懇談会」を開き、女性医師のライフステージに応じて医療現場で活躍できる環境整備を課題として、発展的な議論をかわし、報告案がまとめられた。
 医療機関等における環境整備としては、①職場の理解、②相談窓口、③勤務体制(短時間正規雇用、交代勤務制、当直や時間外勤務への配慮等)、④診療体制(チーム医療推進、地域医療における連携)、⑤保育環境(24時間保育、病児保育等)、⑥復職支援(医学知識や診療技術の提供)などが挙げられた。その他に、支援を受ける医師に対し、「自ら利用可能な社会資源について情報収集、あるいはキャリア形成を主体的に考えていくことが重要」「支援を受けた医師は自らの経験を生かして、将来の後輩に対する支援に回ることが重要」と支援を一方的に受けるだけにならない内容も含まれた。

 群馬での取り組み

 厚労省が2006年にまとめた「医師の需給に関する検討会報告書」では、出産や育児等を機に離職した、いわゆる「潜在的な就労可能の女性医師数」は4500人と推計されたことから、医師不足解消策の一環として、行政による女性医師の復職支援の取り組みが進められてきた。都道府県の相談窓口や日本医師会の受託事業として、女性医師支援センターの設置が行われている。
 群馬県では、「群馬大学医学部附属病院女性医師支援プログラム」、県医師会の「保育サポーターバンク」等によるサービスが始まり、利用されている。

 支援事業定着への課題

 
 2015年1月、総務省は25都道府県、25都道府県医師会、日本医師会等における女性医師等就労支援事業の実施状況等を調査した結果を公表した。
 調査した25都道府県のうち、2012年度に相談窓口を設置しているのは、12カ所で、1年間の相談件数が10件以下の都道府県の割合は25%であり、2012年度から2014年度までの復職のための病院研修の受講者数は、6~8人にとどまった。調査した都道府県の中には、同支援事業の実績が低調なため、事業が中止されたケースもあるという。女性医師に限らず、医師は退職すると連絡が取れないため、復職支援以前の問題との意見もあった。
 女性医師バンクの登録状況の推移から、新規求職登録者数は、ピークを記録した2007年度の207人から2012年度には26人と大幅に減少し、新規求人数も同期間で1659人から742人に半減。就業成立1件当たりのコストは177万円から453万円と大幅に上昇していた。総務省は「女性医師バンクでは求職者の希望にあった医療機関の紹介が十分にできておらず、コスト面からも事業の効率的かつ効果的な実施が必要」と指摘している。
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 女性医師支援が実施されて、いくつかの問題点も明らかになったが、今後女性医師の離職防止・復職支援をより効果的に推進していくためには、離職の実態や復職に係るニーズを適時かつ的確に把握する必要があると考えられる。社会的損失を加速させないため、女性医師支援をより充実したものにし、働く意欲のある女性医師が第一線で活躍できる体制を築いていかなければならない。
  (広報部 太田美つ子)