<保険医新聞>【論壇】医科と歯科を比較して算定要件の違い

【2015. 10月 15日】

平成25年度の保険医療機関等の指導・監査等の実施における返還金額の合計は、146億1千167万円であった(指導による返還分=34億1千903万円 、適時調査による返還分=61億7千508万円 、 監査による返還分=50億1千756万円)。

架空請求、二重請求等はあってはならないことであるが 個別指導において算定要件を満たさないと、自主返還の対象になり得る。

一般歯科の診療において、多く算定される「歯科疾患管理料」は、表に示したとおり、これだけの要件を満たし、患者に文書提供をして、月に1回110点。「歯科衛生実地指導料」では、歯科衛生士が、患者に対し、15分以上の実地時指導を行った上で文書提供をし、月に1回に限り80点が算定可能となる。

生活習慣病としても位置付けられている歯科の2大疾患であるむし歯や歯周疾患の医学管理料の算定において、これらの要件が大きな縛りと感じている歯科医は多いのではないだろうか。

また、「歯科訪問診療料」(同一建物内、1日につき)の算定では、患者1人のみを20分以上診療した場合に866点、20分未満では143点に減額、複数の患者(9人まで)を診療した場合は、20分以上で283点、20分未満と10人以上では143点となる。

ちなみに歯科では、「往診」と「訪問診療」に厳密な区分けは存在しない。

医科の場合には、例えば、「特定疾患療養管理料」がある。生活習慣病等の厚生労働大臣が定める疾患(糖尿病、高血圧性疾患、胃炎及び十二指腸炎等、多くの慢性疾患)に対して、服薬、運動、栄養等の療養上必要な指導管理を行った場合に、225点(月2回程度)を算定する。患者への文書提供の必要はなく、管理内容の要点をカルテに記載することとされている。

通院困難な患者に対して、計画的な訪問診療を行った場合に算定する「在宅患者訪問診療料」(1日につき)は、同一建物居住者以外の場合833点、同一建物居住者の場合103~203点(週3回限度、例外あり)となっている。再診料は包括されるが、疾患による制限、時間要件はない。

このように、医科と歯科では、点数、要件の違いが歴然であり、歯科の点数評価はかなり低く抑えられていることがわかる。極めつけは、深夜・早朝加算である。土曜日の午後の診療について、医科と薬局関係では、患者毎に50点の加算算定が可能となっている。土曜日の午後は、診療時間を標榜していても算定可能だという。

これらの算定要件違いは、保険医協会が、医科・歯科一体の組織であるがゆえに、気づけたことでもある。

7月に公表された中央社会保険医療協議会総会(第301回)の資料によると、歯科医療を取り巻く現状等について、次のようにまとめられている。

〇「歯科診療医療費」は約2・7兆円(平成24年度)であり、国民医療費に占める歯科医療費の割合は年々減少し、約7%となっている。

〇医科診療医療費を傷病分類別医療費にみると、「循環器系の疾患」(約5・8兆円)が最も多く、次いで 「新生物」(約3・8兆円)、「筋骨格系及び結合組織の疾患」(約2・1兆円)となっている。

〇この1年間に病院や診療所を受診したことがある者は81・0%、受診していない者は17・2%であり、医療機関を受診した者について、受診した際の傷病名をきいたところ、「歯の病気(むし歯を含む)」が最も高く41・0%であった。

〇歯科診療所受診患者の年齢構成をみると、年々、若年者が減少し、高齢者の割合が増加している。平成2年までは半数以上が44歳以下であったのに対し、平成23年においては歯科診療所受診患者の 3人に1人以上が65歳以上となっている。

〇平成20年と26年のレセプト1件あたり各診療行為の構成割合を比較すると、各年齢層において「歯冠修復及び欠損補綴」が減少し、「処置」が増加している。

〇75歳以上の後期高齢者においては、「在宅医療」の伸びが顕著である。

この資料からも、歯科では8020運動が推進され、一定の成果が得られていることが読み取れる。平成元年から臨床に携わった経験から、かつての「痛いから行くのが歯医者」「年を取ったら総入れ歯」という時代から、「痛くならないように行く歯医者」「80歳で20本が目標」となり、セルフケアの徹底と歯周病治療の理解度が向上した。少子化の影響もあり、子どもに手を掛け、「歯みがきの仕上げはお母さん」が広まり、小児のむし歯は激減している。高齢者においては、受診困難な状態が増え、在宅医療にシフトされるが、認知症は口腔機能維持にも影響を及ぼしてくる。

医療費のトップは「循環器系の疾患」であるが、歯周病と全身疾患の関係が解明されつつある昨今、誤嚥性肺炎の予防も含め、今後の歯科のアプローチは、医療費削減や抑制のためにも重要視される診療科の一つとなり得る期待が持てるであろう。

(副会長・小山敦)

■群馬保険医新聞2015年10月号