今年起こった出来事で、特に医療や国民生活に関係するものを取り上げてみた。毎年のことであるが、独断と偏見との誹りは甘受したい。
❐兵庫県南部地震から20年
1月17日で阪神淡路大震災から20年が経過した。震災当時、テレビに映し出された大都市神戸の変わり果てた姿に唖然とした記憶が蘇る。また、3月11日で東日本大震災から4年が経った。復興が着々と進んでいる地域もあるが、遅々として歩みが止まったままの地域も多い。一方で3月21日、石巻線が全線再開したという明るいニュースも報じられた。被災地の復興と活性化の追い風になることを祈りたい。
❐ISによる邦人殺害
1月から2月にかけ、イスラム過激派組織イスラム国(IS)により日本人2人が拘束後、殺害された。罪のない人々の殺害現場を動画で公開するという残虐な行為に憤りを禁じ得ない。11月にもフランスで同時多発テロが起き、多くの犠牲者が出た。テロ組織の構成員は、自らの命を顧みない自爆テロで、不特定多数の殺害を実行する。それに対し、武力で制圧を図っても事は解決しないばかりか、かえってテロを助長するだろう。武装組織を生んだ格差、矛盾の解決への取り組みが必要ではなかろうか。
❐改正公職選挙法公布
6月18日、選挙権の年齢を20歳以上から18歳以上へと引き下げる改正公職選挙法が公布され、2016年6月から施行される。同法により有権者は240万人増加する。若者の政治参加意識の向上が期待されているというが、ならば被選挙権の年齢の検討も必要ではなかったか。いずれにしても課題山積の中、なぜこの時期の「改正」なのか、いまひとつわかりにくい。
❐原爆投下から70年
8月、広島、長崎に原爆が投下されてから70年を迎えた。年々、被爆体験者が減少する中、広島の平和記念式典には、国内の被爆者と遺族ら約5万5千人が、海外からは、過去最高100カ国の代表が参列した。
一方、福島第一原発の事故の処理もまだこれからという中、8月11日、九州電力の川内原発が再稼働し、四国電力の伊方原発も再稼働に向かっている。原発事故への恐怖心はたった4年で風化してしまうのだろうか。
❐日航機墜落事故から30年
1985年8月12日、日本航空123便が群馬県上野村の御巣鷹山に墜落。あれから30年が過ぎた。当時県内の多くの医師、歯科医師が犠牲者の身元確認に携わった。NTSB(米国家運輸安全委員会)の調査によれば、航空機に乗って事故に遭遇する確率は0・0009%だが、事故に遭遇したときの死亡率は96%以上と極めて高い。
このところ、LCC等、格安を謳いながら、パイロットの年齢制限や航空機整備の緩和等、安全管理に不安を感じる事例も見られる。コストの問題もあろうが、安全に関しては手抜きをしないで欲しいものだ。
❐安保法可決成立
9月19日未明、多くの国民の反対、憲法学者の「違憲」判断を押し切って、安倍政権は安全保障関連法を成立させた。国民は、この政権の横暴を決して忘れないだろう。それとともに、与党議員の中から反対の声が全く聞こえないことに、空恐ろしささえ感じる。安全保障は、「抑止」と「安心供与」の二つから成り立つといわれる。前者は攻撃力とその意思表示であり、後者はそれを滅多なことでは行使しないという姿勢である。現政府は、前者に傾きすぎてはいないだろうか。同法の実施にはまだいくつかのハードルがあり、また法自体を廃止することも可能だ。国民の安全に関わる重要な問題である。時間をかけ、民意を反映してこそ民主主義国家といえる。
❐マイナンバー法施行
10月5日より、国民一人ひとりに12桁の番号を割り振るマイナンバー(社会保障・税番号)法が施行された。制度のメリットとして、個人情報の一元管理による事務手続きの簡素化、事務コストの削減、所得の過少申告・扶養控除・生活保護の適正化などが挙げられている。一方デメリットとしては、個人情報の流出、転用の恐れ等が危惧される。6月には、日本年金機構が外部からの不正アクセス受信により、年金受給者と加入者の個人情報約125万件を外部に流出させた。国民全てに関係する組織からの情報流出は、マイナンバー制度に対する不安に直結する。当面、利用範囲は限定されているとはいうものの、今後範囲が拡大した場合、リスクも当然大きくなるだろう。
❐ノーベル医学生理学賞受賞
今年は2人の日本人がノーベル賞を受賞した。特に、ノーベル医学生理学賞を北里大特別栄誉教授の大村智氏が受賞したことは、医療に携わるものにとって意義深い。
寄生虫治療薬「イベルメクチン」を開発し、アフリカおよび中南米などで1億人が感染の危機にさらされているといわれ、重症化すると失明を引き起こす河川盲目症(オンコセルカ症)に劇的な効果を発揮した。大村氏は、「イベルメクチン」開発の特許権を放棄し、その結果、WHO(世界保健機関)を通じてアフリカや中南米などに住む約10億人以上の患者に無償で提供され、失明の危機から救った。
「医は仁術」、改めてこの言葉を思い出した。
❐日歯連
日本歯科医師連盟が不祥事を起こしてしまった。「またしても…… 」という声が聞こえてきそうである。2004年に、汚職・闇献金などで当時の会長をはじめ連盟の役員が逮捕されている。今回は、連盟推薦議員の後援会に対して、寄付金の上限額を回避するための迂回献金が行われたことがその罪状だ。そもそも政治団体間の寄付金に上限を設けたのは、11年前の日歯連事件が発端とされている。体質が改善されていないという問題とともに、今回の事態を招いたことで、歯科医師という職種が社会から浴びせられる視線はさらに厳しいものになるだろう。信用を得るには時間を要するが、それを失うのは一瞬である。
❐TPP交渉妥結
環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に参加する12カ国は10月5日、交渉が大筋合意に達したとする声明を発表した。野党時代、民主党のTPP推進に反対していた自民党は、政権政党になるや否や、手のひらを返したようにTPP交渉に邁進した。この豹変ぶりに関して、何ら説明責任を果たしていない。
最大の懸念は、食の安全であろう。政府は、「指摘された多くの懸念は当たらない」と強調するが、安保法同様、とても丁寧な説明とはいえない。公的保険においても、海外の保険会社の圧力により、健康保険から除外されるサービスが出てくるかもしれない。国庫負担を減らしたい財務省としては渡りに船といったところか。
(副会長・清水信雄)
■群馬保険医新聞2015年12月号