2014年の薬事法の改正以降、インターネットを利用した薬剤購入が一気に身近なものになった。一方で、合法を装うサイトを介した個人輸入も盛んに行われている。ネット販売の利用者は利便性を手にするとともに、適正使用に関わるリスクや偽造医薬品などによるトラブルの危険性も抱えることになった。
日本国内で正規に流通している医薬品、化粧品、医療機器などは、薬事法に基づいて品質、有効性及び安全性の確認がなされているが、個人輸入の医薬品はその対象外である。つまり薬剤としては本物でも、品質などは担保されていない。厚生労働省は個人輸入に関するパンフレットを公表し、(1)不衛生な場所や方法で製造された(2)正規のメーカー品を偽った偽造品(3)含有量が基準を満たしていない可能性、等を挙げ、危険性を伴うとして、注意を呼びかけている。
金沢大学の木村和子教授によると、個人輸入では、未承認薬や既に承認を取り消された薬剤に加え、どの国も承認していない無評価薬すらなんのチェックも受けずに入手出来るという。その上、これらの薬剤は劣悪な環境下での保管、不衛生な状況での詰め替えなど、不適切な扱いを受けた可能性が高い。ロット番号や有効期限の記載のないものは、期限切れの可能性もある、と個人輸入薬の実態を述べ、その危険性を強調した。
医薬品の個人輸入は、輸入業者個人が使用する範囲であれば(処方箋薬なら1カ月分以内)通関手続きのみで可能である。手続きを含め輸入を請け負うのが個人輸入代行サイトだが、ほとんどは薬事法や特定商取引法に従っていないという。不正な医薬品販売サイトを監視するレジットスクリプト社は、2013年の調査で、処方薬名及び「個人輸入」「通販」などの日本語検索で得た2345サイトのうち、厚生労働省の規則に従っていたのはたった1つのサイト(0・1%)のみだったと報告している。
医薬品の個人輸入における第1の問題は、健康被害である。2009年には利尿薬(フロセミド)が含まれた痩せ薬を服用した女性、2011年にはED治療薬の偽造品を入手した男性が死亡したと報告された。偽造医薬品の流通量の増加とともに、健康被害も拡大している。
2006~07年、パナマで100人以上の死者を出した咳止めシロップには、グリセリンの代わりに中国から輸入された不凍液などに用いられるジエチレングリコールが使用されている。日本では、強壮作用をうたう健康食品の利用者から低血糖の訴えがあり、複数の製品から糖尿病治療薬グリベンクラミドが検出された。
偽造医薬品には、有効成分無添加や少量添加したもの、逆に効果を高めるために本来の成分以外の薬剤を加えたもの、さらには製薬の過程で毒性の高い薬品を使用したものなど、さまざまなタイプが存在する。昭和大学藤が丘病院泌尿器科の佐々木春明教授による調査では、ネット上で流通しているED治療薬の55・4%が偽造品であり、調査国別でみると、タイのサイトで67・8%、日本のサイトでも43・6%が偽造品であったという。偽造ED薬には、有効成分が含まれていないどころか、殺鼠剤、抗炎症薬、血糖降下薬など何が混入しているかわからないという実態がある。
花粉症治療に用いられる抗アレルギー薬は、ネット販売でも人気がある薬剤であり、個人輸入も活発である。効果を求め、倍量を服用するなどの自己調節も安易に行われており、2011年には副作用と考えられる劇症肝炎による死亡例も報告されている。
医薬品の個人輸入における第2の問題は、製造物責任法(PL法)が適用されないことである。販売した薬剤が購入者にどのような不利益を与えても、輸入者(販売者)の責任は問われない。偽造薬が蔓延する理由がここにある。真正品であっても、未承認薬や適応外薬には注意を要する。前者は海外で承認されているが、日本では未承認の薬剤である。後者は日本で承認されてはいるものの、購入者が目的とする症状に適応のない薬剤を意味する。これらの薬剤は海外での評価が高くても、体格や薬物血中濃度などが異なる日本人での審査はされておらず、有効性、安全性ともに不明である。
このように個人輸入では薬剤自体に信頼性がなく、被害を受けても保証はされない。手軽さというベネフィットと、それに伴うリスクをよく検討し、医薬品入手を安易に考えないよう患者を啓発することが必要である。
(広報部 太田美つ子)
■群馬保険医新聞2016年2月号