<保険医新聞>【論壇】公的医療保険の大きな格差

【2016. 5月 15日】

 私は内科開業医で、職員も含めて、群馬県医師国保に加入しており、その保険料がこの4月より値上げになると通知があった。
 我が国の公的医療保険は、職域、地域、年齢などによりいくつかの種類があり、国民皆保険制度なので、そのいずれかに加入することになる。75歳以上は後期高齢者医療制度となるが、それ以下の年齢では、公務員は共済組合、その他は、健康保険(健保)または国民健康保険(国保)に加入する。国保の中でも、住所地の市町村国保と、職能団体などが互助会的に運営している国保組合があり、医師国保も国保組合の一つである。

 国保は、保険給付費に対して国庫補助があり、2007年では市町村国保が55%、国保組合全体では40%となり、国保組合の中でも差があり、建設関係国保45%、一般業種国保36%、歯科医師国保30%、医師国保27%である。健保でも、中小企業職員の多い協会健保には16%の国庫補助があるが、大企業職員の組合健保にはない。
 しかし、2013年に成立した社会保障制度改革プログラム法により、国保組合ではその平均所得により、国庫補助率が医療給付費の32%から13%の11段階に振り分けられ、2016年度より実施されている。
 医師国保は医師およびその家族、職員が加入するが、その平均所得が高いとのことで、国庫補助率が最低の13%に減額されるため、この4月からの保険料の値上げとなったが、群馬県歯科医師国保の保険料の改定も、同様の事情と思われる。
 国保組合の保険料は、互助会的な性格もあり、年齢、職能、家族などによりほぼ定額であるのが特徴である。群馬県医師国保の月額保険料は、医師である組合員は3万2400円、家族および職員は1万5400円、職員家族は1
万1100円で、40から64歳では介護納付金4800円が加わる。この保険料は所得に関係ないので、ある程度以上の所得で市町村国保や協会健保に加入した場合と比べるとかなり安い。しかし、医師国保では自院での診療は保険請求しないという決まりがあり、医師国保加入者の医療費が少なくなる仕組みも関係している。

 それに対して、退職、失業、独立等で加入する事になる住所地の市町村国保の保険料は安いとはいえず、その事もあり徴収率も低い。国保保険料の支払い義務感を増して徴収率をあげるために、国民健康保険税と呼び、地方税の一つとしている市町村もある。
 年収200万円(所得ではない)の単身者の国保保険料を人口20万人以上の都市について2014年度で試算すると、1位は広島市で、32・5万円となり、年収の16%にもなる。群馬県の前橋、太田、高崎、伊勢崎市は22・8から20・3万円で平均程度だが、年収の10%以上である。これに20歳からの国民年金保険料を払い、40歳以上で介護保険料が加わると、さらに生活は厳しい。

 伊勢崎市の市町村国保の保険料は、下表の様に、医療分、後期高齢者支援金分、介護納付金分の合計で、それぞれに、所得割、資産割、均等割、平等割があるが、単身者では、1世帯につき定額の平等割の負担も大きくなる。
 給与水準の高い公務員の共済組合や大企業の健保組合、中小企業の協会健保の場合、保険料は事業主と被保険者で折半している。また、傷病手当金や出産手当金などの手厚い保障も得られるが、国保にはその保障はない。
 保険料については、国保組合では、定額で比較的安いが、市町村国保は比較的高く、自治体により大差があり、生活が成り立たないほど高額な所がある。
 市町村国保は、加入者が退職者、無職、低収入者が多くなるため、保険料免除の割合が大きく、保険料の徴収も難しい面があり、高所得者からの保険料も期待しにくく、保険料収入が少ない財政上の構造的な問題がある。
 プログラム法で定められたとおり2018年度から市町村国保の運営を都道府県に移管することが決まっているが、それで全てうまくいくわけではない。保険料の徴収の仕組みや給付の様な身近な問題は市町村が行い、都道府県は財政などで関与することになるのか。しかし、財政にもっとも大きな影響を与えるのは国庫補助と思われ、社会保障の一環として、増額が必要だ。
 失業した場合などでも、安心して払える国保保険料となるような施策が望まれる。

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   (副会長 長沼誠一)

■群馬保険医新聞2016年5月号