国民皆保険に基づく公的医療保険による医療費は、1989年の消費税導入当初から非課税であるが、医療機器や医薬品、医療材料などにかかる消費税は医療機関が負担するシステムになっており、「控除対象外消費税問題」「損税問題」と呼ばれる。
実際に、全国の医療機関が負担している消費税はいくらになるのか。
2007年度の調査(日本医師会)によると、医療機関の保険収入の2・2%相当額が、負担消費税となっている。消費税5%の時点で、全国で9000億円は超えるとみられ、8%となった現在、単純に1・6倍すると3・5%、1兆4000億円を超える計算になる。厚生労働省は、消費税導入当初から、診療報酬に医療機関の負担軽減分を上乗せする形で、1989年(消費税導入)0・76%、1997年(5%に引き上げ)0・77%、2014年(8%に引き上げ)1・36%と、消費税負担分を補填してきた経緯がある。
しかし、近年大きな問題となっているのは、1989年と1997年分の合計は1・53%、保険診療における消費税負担は2・2%で、差の0・67%(2700億円)が控除対象外消費税における医療機関の負担、実質的な「損」となり、補填されていないことだ。
「診療報酬による補填」は、一見合理性のある方法にも見えるが、次の問題点が挙げられる。①医療機関ごとの支出の違いに対応できずに、補填不足となる医療機関が発生する。②「非課税」前提の保険診療の医療費について、不透明な形で、患者や保険者から徴収している。
全国保険医団体連合会(保団連)の調査によると、2014年度の消費税対応分の保険収入は、平均でプラス0・73%、消費税対応分を除いた実質改定率についても、プラス0・16%であったが、「在宅訪問診療料2」を算定する医療機関では、実質改定率が平均でマイナス4・40%となり、最大で10・0%の診療所もあったとの報告がある。調査に伴い、消費税10%引き上げ時の医療機関の負担の試算も実施されており、5%時の4300億円から10%時には1700億円増の6000億円。薬剤費などを通じて、患者や保険者が負担する消費税は、5%時の5000億円から、10%時は7600億円増の1兆2600億円になるとみている。
医療界では、消費税による負担増を、診療報酬に上乗せして補填する方法は、限界に来ているとの考えは一致している。保団連では、根本的な解決に向け、社会保険診療に対する消費税を課税転換し、課税ゼロ税率を求めている。 日本医師会は、この問題に対して、これまで、各種資料などで4つの案を示してきた。
公的保険の医療費に対して、(1)課税転換、軽減率適用、負担分を控除(免税制度への転換も実質的に同じ)、(2)課税転換し、ゼロ税率適用し負担分を控除、(3)非課税のまま、全額還付、(4)非課税のまま、一部還付である。
ところが今年3月に開催された日医の臨時代議員会で、今村副会長は、医療機関の控除対象外消費税問題について、医業税制検討委員会が答申した解消策をもとに、「2017年度税制改正大綱に結論を記載することを目指す」と表明し、「現行の非課税制度を維持したまま、診療報酬で仕入税額相当額として上乗せされている、2・89%相当額を上回る負担をしている場合に、超過額を税額控除(還付)する新たな仕組み」を提言した。これまでの「非課税制度を課税制度に転換して、軽減税率を導入する方法」といった課税方式への転換は、診療所へのマイナスの影響が懸念されるなど、課題が多いとし、さらに、4つの問題点があると指摘した。
1つ目は、過去の上乗せ分の「引きはがし」(マイナス改定)が実施される懸念があり、全国の医療機関がそれを理解し受け止めるのは困難だということ。2つ目は、診療報酬の所得計算の特例(いわゆる四段階制)が廃止となる可能性が高く、この制度が廃止になれば、地域の高齢医師は新たに増える事務負担に対応できず、診療施設の閉鎖に追い込まれ、地域医療の崩壊を招きかねないこと。3つ目は、現行で課税対象となっている予防接種や健診等の自由診療で、患者から預かる納税実務に関し、小規模医療機関は免税事業者あるいは簡易課税事業者になっているが、社会保険診療を課税転換すると、免税事業者から簡易課税事業者に、あるいは簡易課税事業者から一般課税事業者に立場が変わるため、事務負担と税負担が問題になる。4つ目として、課税転換で、事業税非課税措置について廃止の議論が急速に進む懸念があることを挙げた。
加えて、軽減税率での大前提は、社会保険診療を課税取引に転換するため、国民の理解を得るのは難しいと指摘した。
一方、日本歯科医師会は、以前から「非課税で還付」を要望している。歯科の場合、過去の消費税補填分がほぼそのまま残っているとされ、控除対象外消費税の問題が存在していない可能性が高く、「引きはがし」への抵抗感が強い。
医療界では医療消費税について、不合理な負担の抜本的な解決を求めていくことでは一致しているが、社会保険診療に対する消費税を課税転換し、ゼロ税率を含めた軽減税率とするのか、もしくは非課税のままで還付する制度を導入するのがいいのかなど、具体的な手法に関しては、依然として一本化されていない。
問題解決には、日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会、四病協(日本病院会、全日本病院協会、日本精神科病院協会、医療法人会)などとの連携をとりながら、医療界が一丸となることが必要であり、政府税制調査会でも課税のあり方を検討、議論を開始してもらいたい。
(広報部 太田美つ子)
■群馬保険医新聞2016年10月号