【論壇】超高齢社会

【2016. 9月 15日】

 総人口に対して65歳以上の高齢者人口が占める割合を高齢化率という。世界保健機構(WHO)や国連の定義によると、高齢化率が7%を超えた社会を「高齢化社会」、14%を超えた社会を「高齢社会」、21%を超えた社会を「超高齢社会」といい、日本は、2007年に「超高齢社会」に突入した。
 高齢化率が進んだ原因は、低い水準で推移している出生率と、日本の医療技術の進歩による死亡率の低下にある。他国ではまだ経験のない超高齢社会をいち早く迎えた日本の取り組みは、世界中から注目を集めている。
 一方で、平均寿命と健康寿命(健康に問題がなく、日常の生活で介護を必要とせずに生活ができる生存期間)を比べると、男性は9年、女性は12年の差が見られ、健康寿命を延ばすことが課題であると考えられる。
 現在、年間約10兆円かかっている介護保険給付費であるが、2025年には約20兆円と、2倍に膨らむことが推計され、財源確保は、極めて困難である。
 健康寿命の割合が高いほど、寿命の質が高いと評価され、結果として医療費や介護費の削減に結び付く。
 介護予防のキーワードとして、年齢とともに筋力が落ちる「サルコペニア」、運動機能が低下した状態になる「ロコモティブシンドローム」、内蔵脂肪が蓄積して生活習慣病のリスクが高まる「メタボリックシンドローム」などが知られているが、ここでは、「フレイル(虚弱)」について述べたい。
 フレイルとは、「(年齢に伴って)筋力や心身の活力が低下した状態」のことで、筋力低下、体重減少など、身体的なものだけでなく、精神的な活力も大きく影響し、精神的活力低下によりフレイルに陥るとされている。
 
 【フレイルの診断基準】
 ① 体重減少 (1年で4・5㎏以上、自然に減少)
 ② 疲労感
 ③ 筋力の低下
 ④ 歩行スピードが遅い
 ⑤ 身体活動が低い
 以上5項目のうち、3つ以上があてはまると、フレイルと診断される。
 フレイルはしかるべき介入により再び健常な状態に戻るという可逆性が包含されている。健康寿命を延ばすためには、フレイルに陥った高齢者を早期に発見し、適切な介入をすることにより、生活機能の維持、向上を図ることが不可欠だ。

 ●歯科からのアプローチ オーラルフレイル

 歯周病は、糖尿病、肺炎、脳梗塞、心臓血管疾患、消化器系疾患、認知症、低体重児出産などという「全身の健康」に影響することが研究により明らかになっている。さらに、口腔機能の低下は全身の衰えに大きく関わることもわかってきている。
 例えば、歯の欠損を気にして、人前に出にくくなり、社会的行動範囲が狭められると筋肉量低下に繋がる。歯周病の治療をせず、進行することで噛みにくい環境になり、食が偏り、体重減少に繋がる。結果として要介護になることも予想される。
 一般歯科診療所でみられる咀嚼障害の原因は、歯の欠損によるものが大半であり、補綴し、咬合の回復を図れば機能も回復する。しかし、高齢期における咀嚼障害の場合、咬合回復や歯があるだけでは、食べたり、飲み込んだりすることはできない。唾液分泌量の減少や舌、口腔周囲筋肉の機能低下が起きているからである。逆に歯がなくても、唾液分泌量や舌、口腔周囲筋肉の機能がしっかりしていれば、食形態を対応させることで栄養供給が出来る。
 地域における歯科診療所の役割として、滑舌の衰え、食べこぼし、わずかなむせ、噛めない食品が増える等、ささいな歯・口の機能の虚弱(オーラルフレイル)に気づき、それを患者に気づかせ、口腔機能低下に対して機能訓練等で介入することが重要だ。
 2016年の診療報酬改定では、かかりつけ歯科医機能が強化された。医科・歯科、他職種で連携し、地域において、フレイル予防を推進することが期待されている。医科・歯科一体で活動する保険医協会の特性を活かし、積極的に取り組んでいきたい。
   
   (副会長・小山 敦)

■群馬保険医新聞2016年9月号