【論壇】子宮頸がんワクチンの近況

【2017. 10月 15日】

 子宮頸がんとヒトパピローマウイルス(HPV)

子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス(以下HPV)による感染症であることが近年わかってきた。
HPVは100以上の種類があり、子宮頸がんに大いに 関与する高リスク群と、関与 しない低リスク群があること がわかってきた。そのうち16、18型のHPVは、咽頭がんの70%、HPV陽性口腔咽頭がん、子宮頸がんの70%、肛門がんの80%の原因ウイルスであり、HPVの持続的感染が子宮頸がんの原因である。
HPVの感染は、ほとんどのものが6ヵ月以内に排除され、性器型HPVも2年以内に排除されると言われているが、潜伏感染があるという意見も見られる。

 日本における子宮頸がんワクチン

2009年4月、世界保健機関(WHO)は、公式見解(ポジションペーパー)において、発展途上国を含めた世界全体でのHPVワクチンの使用を推奨し、ワクチン接種プログラムに導入すること、およびその財政的基盤を作ることの重要性を強調している。またWHOは、各国の政策立案者に向けたHPVワクチン導入のためのガイドラインを示した。
2014年までに世界中で4000万回のHPVワクチン接種が実施され、オーストラリア、スコットランド、ルワンダでは、ワクチンの接種率は80%を超えている。そこで日本でも、HPV感染の予防として、2009年10月に2価ワクチンが承認され、12月より販売開始、続いて4価ワクチンが2011年7月に承認、8月より販売開始された。
対象は、中学1年生から高校3年生相当の女子とされたが、HPVに既に感染した既往がある人でも、その後の新たなHPVの感染を防ぐメリットや、別の部位の感染を予防する効果があるのでワクチンを打つ年齢に制限は設けられなかった。2013年3月31日までは、事業の対象者(おおむね中学1年生から高校3年生相当の女子)は無料もしくは低額で接種を受けられた。2013年4月1日以降は予防接種法に基づく定期接種としての接種が続けられている。

 子宮頸がんワクチンの有害事象

2013年6月14日の専門家会議では、接種のあと原因不明の体中の痛みを訴えるケースが30例以上報告され、回復していない例もあるとして、厚生労働省は定期接種としての公費接種は継続するものの、全国の自治体に対して積極的な接種の呼びかけを中止するよう求めた。現在もこの子宮頸がん予防ワクチンは積極的な接種勧奨の差し控えられたワクチンとされている。
今年に入り日本産科婦人科学会は、HPVワクチン接種勧奨の早期再開を求める声明を出した。
これは、労働省研究班による『青少年における疼痛又は運動障害を中心とする多様な症状の受療状況に関する全国疫学調査』の結果報告で、ワクチン接種歴のない12〜18歳の女子においては、人口10万人当たり20・4人の頻度で症状を示し、また年齢構成など多くのバイアスが存在するため直接比較することはできないが、接種歴のある女子においては人口10万人当たり27・8人の頻度で症状を示すと推計されたことによる。
つまりHPVワクチンの接種歴の有無にかかわらず、思春期の女性に、このような多様な症状を呈する人が一定数存在することが示されたことになる。元々このワクチンの有効性と安全性は以前よりコンセンサスが確立されており、英医学誌「ランセット・オンコロジー」でも、2012年に製薬会社が実施した治験のフォローアップの報告を掲載している。
一方、今年に入り、子宮頸がんの発症を抑えるためのHPVワクチンの予防接種による副作用を訴える女性たちが、国と製薬企業を相手取って、損害賠償を請求する集団訴訟を起こした。

 今後の課題

今後の課題として、副作用と言われる有害事象を起こした被害者の救済が、一番大事と思われる。
救済は、産科医療制度でも取り入れられている、無過失補償を、国の主導で早急に行うのがいいと私は考えている。そしてHPVの予防接種に関する情報の共有を、医師、ワクチンを受ける子どもたちとその親、その他すべての人でする必要があると思われる。
私が医師になった約30年前、子宮頸がんは、手遅れになってから見つかる人も多かったが、子宮頸がん検診の普及でだいぶ早期発見ができるようになった。子宮頸がんは、早期発見、早期治療で死ななくていい病気になりつつある。そこに予防のワクチンが使えるなら、それに越したことはない。なぜなら子宮頸がんは、欧米ではマザーキラーと呼ばれ、多くの患者が小さな子どもを残して亡くなってしまう病気だからである。
国、製薬会社、医師は、その安全性だけでなく、有害事象も含め、患者に丁寧に説明し、有害事象が起きたときにどうしたらいいか、有害事象が起きた患者の立場で考え、今後の子宮頸がんワクチンの接種に対して医療サイドだけでなく、患者サイド、みんなで考えていく必要があると考える。
今年の日本産婦人科学会では、ワクチンの接種歴とHPV16、18感染率や子宮頸がん細胞診ASC-US以上の病変率等に差があり、早期再開を強く要望する声明が出された。

(副会長 小澤聖史)

■群馬保険医新聞2017年10月号