「改善していないのに介護度が下がってしまった」との声を多く耳にするようになった。実際、介護認定を決定する介護認定審査会に関わっていると、最近、一次判定に異変が起きていると感じる。1回の介護認定審査会では、25~30件ほどの審査を行うが、3分の1前後、多い時は半数にあたる審査事例で介護度が下がっている。もちろん、前回審査時には、脳卒中や骨折などの重大なイベントがあったが、退院した直後であったり、リハビリの結果、実際に改善がみられていることもある。しかし、多くの場合、状態が大きく改善したとは読み取れない。
介護審査会での審査までに、どのような経過で一時判定が出るのか。本人・家族からの申請があり、調査員が訪問し、主治医が意見書を作成し、調査員のマニュアルに沿ったチェック項目をコンピューターが一次判定して、直近の審査会にかけられる。私が審査員になった数年前は、介護度が下がるのは5件を超える事は稀であったのだが、何が起こっているのだろうか。コンピューターの介護認定ソフトが改変されているのでは、との疑念を持ってしまう。もし、ソフトが変更されていないとすれば、チェックを入れる調査員への指導内容に変更があったのか、実情を知りたいところだ。
介護サービスの充実により、半数近くの人が自立の方向で、身体状況の改善や認知症が軽快しているなら、喜ばしいことであり、介護システムの成果として関係者や国民・市民に公表し、アピールできる価値があるだろう。
判定のルールの一つに、「現状での判断をすべし」というものがある。日常診療の中で、介護サービスの充実により軽快している人が増えていると感じることもあるが、デイサービスに通い、社会参加していることが、身体機能の改善のみでなく、精神面へ良い影響を与えている場合も多い。家族の負担の軽減にもなっており喜ぶべき変化だ。しかしこれらは、デイサービスなど、現状のサービスを受けているからこその現状であり、改善して、次の介護認定でサービスの量の低下が余儀なくされるとしたら、それは、このシステムの目指す方向に逆行しないか。
認定審査会において、「現状での判断」を単に申請当事者の身体状況・認知状況の狭い範囲でとらえず、サービスを利用しているからこその現状、と広義にとらえてよいということになれば、一次判定ではそれらが反映されなかった場合でも、介護度の変更が可能となり、審査会の存在価値も高まるだろう。
ところが、新しい取り組みとして「審査会のスリム化」が始まった。審査会への出席は医師だけではないが、平日の午後に行われるため、業務の中断をやむなくされる。現在、介護審査の1グループ(合議体という)の医師は2名体制となっているが、医師会からの人選が困難になってきているという理由で、1名体制にしたいという意向が自治体から示された。さすがに、今年度はすでに選出されたあとなので、不安の声もあり、多くの合議体でこれまで通りの2名体制で運営している。コンピューターで読み切れない部分を、現場の視点で、関係者が合議する場は貴重だと思うのだが、ここにもスリム化の波が押し寄せている。
実際に私が関わった審査会の議論の中で学んだことがある。パーキンソン病の診断の付いている患者について、調査時点での状態が良く、調査員のチェックが入らなかったため、一次判定で介護度が大幅に下げられていたが、神経内科を専門とする医師から疾患の特徴を説明され、これまで通りの介護度に戻すということがあった。認知症のある患者の調査でも一度の面接では読み切れないこともある。「人の世話にはなりたくない」との思いが強く、調査時に、最大限の力を振り絞って無理をする人もいるからだ。
「地域包括ケア」と声高に叫ばれ、病院のベッドも減らされ、地域の中で生活できるような仕組みを構築しようという今だからこそ、しっかりとした介護サービスを提供し、自立した生活ができるようにするのが、介護保険制度の趣旨ではないだろうか。
予算がないと言われるが、一方では毎年増加している分野もある。財布は一つだ。使い方をどうするかも考えながら、私たち医療人は、その立場での主張をしていきたい。
(副会長・深澤尚伊)
■群馬保険医新聞2017年9月号