1 厚労省統計不正問題
厚労省が公表する「毎月勤労統計」で、ルールに反する抽出調査は2004年から15年間も続き、景気動向や経済政策の指標となる重要な統計が歪められていた。今回の不正の根幹部分は、本来、全数調査すべきところをサンプル調査にして、それを補正せずに放置したことである。サンプル調査は一般的に行われる手法であり、数字がおかしくなったのは、補正作業を忘れていたからである。1000件分の数字が必要なところが、200件分しかなかったということなので、出てきた賃金の数字は実際よりも低くなってしまった。
だが、問題はこれだけにとどまらない。一連のミスが発覚したあと、厚労省は、04年まで遡って全てのデータを補正するのではなく、18年以降のデータだけを訂正するという意味不明の対応を行った。このため、18年からは急激に賃金が上昇したように見えてしまった。この訂正作業は、麻生太郎財務大臣による統計批判がきっかけだったとも言われており、これが政権に対する「忖度」であると批判される原因になっている。
2 韓国徴用工問題
昨年11月、韓国最高裁が元徴用工訴訟で日本企業に賠償を命じた確定判決から1年が経った。現在の冷え切った日韓関係の起点であり、両国の関係は悪化の一途をたどった。その後も韓国軍による自衛隊機へのレーダー照射などが起こり、日本が輸出規制の厳格化を打ち出すと、韓国は軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄を通告した。これらの問題をめぐり、韓国では日本製品や日本への旅行をボイコットする運動などが起きている。
現代における両国の確執は、1910年の韓国併合から始まった。第2次世界大戦では、アジア各地の数万人とも20万人ともいわれる女性が、日本軍向けの売春婦として連行された。また日韓併合の後、多くの朝鮮人男性が日本軍に強制的に徴用された。
第2次世界大戦に敗北し、朝鮮半島の統治に終止符が打たれてから20年後の1965年、韓国は数億ドルもの補償金や融資と引き換えに、日韓関係を正常化させる日韓基本条約に合意した。日本は、この時に支払った8億ドル以上の「経済協力金」によって戦時の補償は終わっていると主張している。しかし、「慰安婦」は繊細な問題として残り、2015年には、慰安婦問題について謝罪を行い、被害者を支援する基金に、韓国が求めていた10億円を拠出することで合意したが、韓国の活動家は相談を受けていないとしてこの合意を拒否。2017年に就任した文在寅(ムン・ジェイン)大統領も、合意の改定を示唆している。歴史的な確執はなお続いており、両国とも折れる気配はない。
3 高齢者の車暴走、上級国民
4月、池袋で自動車の暴走死亡事故を引き起こした88歳の男性が、逮捕もされず、肩書きも旧通産省工業技術院元院長とされ、上級国民として問題になった。フレンチレストランの予約に遅れると暴走し、自分のミスで事故を起こしたのに、車のせいにしたりするのは、高級官僚を長く務め、責任をとらない姿勢が染みついてしまったか。この辺は、森友・加計書類を改ざんしたり、隠したり、廃棄して恥じない官僚と通じるものがある。
4 令和へ天皇代替わり
4月30日、84歳の明仁天皇が退位し、5月1日、徳仁天皇が即位。元号は平成から令和に変わった。
昭和の裕仁天皇は戦争責任を問われたが、明仁天皇はその反省から象徴天皇として行動したことになり、子の徳仁新天皇もそれを受け継ぐとのこと。
令和に変わった元号は東アジアで用いられる紀年法で、その改元理由には、代始改元、祥瑞改元、災異改元などがあるという。ただ、明治から始まった一世一元は、日本古来の伝統というわけでもなく、年齢計算にも不便な表記で、西暦表示の方が使いやすい。
5 香港デモ
6月、香港で犯罪容疑者の中国本土引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改定案に反対するデモが始まった。香港は、1997年にイギリスから中国に返還されたが、その後50年は一国二制度により自治権をもつとされている。この逃亡犯条例をだした行政長官は中国寄りで、香港の有権者から直接選ばれているわけではない。10月に条例は撤回されたが、デモの原動力は、暴力的な香港警察への怒りと、民意を無視した香港政府のシステムへの反発、さらに若者層の反中国感情の表出などが主たるものになっている。
香港に住む人の大半は、民族的には中国人だが、自分たちを中国人とは思っていない。政府批判や天安門事件の話もできない中国共産党の独裁体制の批判ということになる。
6 台風による暴風、大雨被害
9月の台風15号は、最大風速57mの強風により千葉県を中心に送電線の寸断など、大きな被害をもたらし、10月の大型台風19号は、東日本に記録的大雨による被害をもたらした。一昨年の北九州豪雨、昨年の西日本豪雨などと同様、海水温上昇による豪雨が続いている。夏の40度を超える猛暑と合わせて考えると、地球温暖化の影響はすでに出ているともいえ、温暖化対策は待ったなしだ。また、従来の強風対策、大雨対策では防げなかった被害に対しての対策も必要となる。
7 消費税10%
10月には消費税が10%に増税された。財務省の引き上げの理由づけは、少子高齢化による社会保障財源を現役世代だけでなく、高齢者も含めた国民全体で負担するためとしている。これは、現役世代対高齢者という対比で説明しているが、低所得者の増税と高所得者の減税という実態を隠している。
過去の消費税増税分は、所得税、法人税の減税分を消費税増税でまかなっているに過ぎない。また、今消費税を増税すると貧困と格差は増大し、消費が減り、経済成長率も低下させる。食料品と新聞に軽減税率が導入されたが、すでに導入しているヨーロッパの国は、低所得者対策ではなく、物品税などの既得権との妥協の産物であり、徴税コストが増え、線引きが難しく、高所得者の方が得をするシステムなどの問題点があり、デンマークは採用していない。ハンバーガーの持ち帰り8%、店内飲食10%など、どう考えてもおかしい。
8 ラグビーワールドカップ
9月~11月、ラグビー・ワールドカップ(W杯)日本大会が開かれ、ラグビーのにわかファンが増えた。予選の4試合は、試合ごとにテレビの視聴率も上がり、準々決勝・日本-南アフリカの平均視聴率は41・6%と、今年放送された全番組で1位となった。日本が躍進し、単に勝つだけでなく劇的なシーンの連続で、ルールや選手を知らない人でも盛り上がれる魅力的な試合だったことと、日本代表選手の振る舞いに共感を得る人が多かったのだろう。得点をあげた選手自身が個人の活躍には言及せず、「選手やスタッフだけでなく、応援してくれる人々も含めたONE TEAM」というコメントを欠かさなかったことも人々の心に響いた。高校から現在もラグビーを続けている友人に良く聞いた「ONE FOR ALL ALL FOR ONE」(1人はみんなのために みんなは1人のために)の合い言葉は、スポーツだけでなく、医療や社会保障などにも通じるいい言葉と思う。
9 関西電力金品受領問題
関西電力の役員らが高浜原発の立地する福井県高浜町の元助役(故人)から2017年までの7年間に3億円以上の金品を受け取っていたことがわかった。
関西電力は原発への依存度が最も高く、原発事故などで起こった反原発運動を抑えるための地元対策を元助役に頼っていた面がある。元助役は1987年に退職してからも関西電力子会社の顧問として迎えられ、別会社の副社長にも就任するなど、原発行政に深く関与した。電気料金は、経費が反映される総括原価方式で決められる。工事費は高額になっても困らない構造になっているため、反対運動を抑える元助役と関西電力の関係は持ちつ持たれつだったともいえる。元助役からの金品は、福井県職員にも渡されており、原発での裏金の構図がうかがえる。
10 ノーベル化学賞 リチウムイオン電池の発明
リチウム電池は、日本のソニーで製品化され、携帯電話やパソコンなどに使われ始めたが、電気自動車の普及とともに、CO2削減という地球温暖化防止に役立つ面が増えてきた。ノーベル賞はその時々の関心事に関連のある事柄が選ばれる面があり、欧州では環境問題が重要視され、リチウムイオン電池の発明に貢献したとして、旭化成名誉フェローの吉野彰氏にノーベル化学賞が贈られた。リチウム電池は、その原理の発明、製品化に日本の研究者、企業が先行していたが、現在の生産量は中国、韓国に次いで3番目となっていて、日本の製造業の相対的低下が見て取れる。
11 桜を見る会の私物化
桜を見る会は、新宿御苑で開かれ、皇族や外国の大使、国会議員のほか、文化・芸能、スポーツなど各界の功労者が招かれるとされるが、安倍首相になってから、招待者数が増え、今年は1万8000人で、開催経費は5500万円だった。野党は、首相の後援会関係者などが首相枠で多数招待されていることを問題視し、税金で賄われる桜を見る会の招待は、公職選挙法が禁じる買収・供応に当たる可能性を指摘する声もある。安倍事務所が地元で桜を見る会の希望者を募り、そのツアーには前夜のホテルニューオータニで開いた夕食会も含まれていた。会費制だが、後援会の政治資金収支報告書には記載がなく、野党は、政治資金規正法違反の疑いも指摘している。
この会の招待者名簿は、5月に野党議員から開示請求された日に、裁断廃棄されたことが明らかになった。ここでも不都合な資料隠しがされている。〝森友〟で妻の疑惑、〝加計〟で友人の疑惑、〝桜の会〟で本人の疑惑となり、税金の私物化、公文書の隠蔽が大手を振っている。
(副会長 長沼誠一)
■群馬保険医新聞2019年12月号