後発医薬品の数量シェアは、ここ数年で急速に浸透している。日本ジェネリック製薬協会の分析結果によると、平成25年度では52・3%だったが、平成30年度では74・7%にまで上昇し、政府が目指す2020年9月までに「使用割合80%」の実現に迫る勢いである。ただ、金額ベースでみると、高額薬剤の登場などで後発品の割合は全体の14%にとどまっている。一方で長期収載品が金額ベースで30%と高水準を維持しており、政府の思い通りにマーケットシフトが実現していない。
そこで俄然注目され始めたのが「フォーミュラリー」の導入である。フォーミュラリーとは、「医療機関における患者に対して最も有効で経済的な医薬品使用における指針」のことである。財務省や厚労省が薬剤費の削減に効果的であるとしてフォーミュラリーに注目しているが、経済性だけに基づく選択や使用制限ではない。有効性や安全性、費用対効果などを踏まえ、関係する医師や薬剤師らで構成される委員会で協議し、継続的にアップデートする使用指針(フォーミュラリー)を定めることにより、質、安全性および経済性の高い薬物治療を行いやすくなる。客観的な指標をもとに作成されることで、医療の発展には欠かせない薬剤費抑制を含んだ医薬品の適正使用、在庫管理、エビデンスの創出をうながすことが出来ると期待されている。専門分野以外でも適切な薬物療法を効率的に行えるように支援するのが、フォーミュラリーである。
フォーミュラリーは、「院内フォーミュラリー」と「地域フォーミュラリー」に分けられる。「院内フォーミュラリー」は、病院全体の採用薬を薬剤部が取り仕切って情報収集および情報発信することにより、薬物治療をより安全に、経済的にするというものである。
生活習慣病薬でも新薬や配合剤が増え、後発医薬品使用割合が70%を超えた今、医師それぞれが好きな薬剤やメーカーを選ぶことは非効率かつ非経済的であるため、フォーミュラリーが考慮され始めた。
日本でフォーミュラリーをいち早く導入したのは聖マリアンナ医科大学である。同大学病院では、原則として後発医薬品を中心に2剤までを採用、有効性や安全性に差が認められなければ新薬の採用は認めていない。2014年に一部の薬効群で運用を開始し、その後数年間で9薬効群まで拡大。年間3700万円の医療費を削減したと言われている。中央社会保険医療協議会が実施した調査によるとDPC対象病院・準備病院のうち約7%がフォーミュラリーを定めており、11%弱が今後定める予定があると回答している。病院全体で見ると、定めているのは3・4%、今後定める予定があるのが7・5%であり、徐々に広がりを見せている。
一方「地域フォーミュラリー」については、協会健保の支部単位や自治体、顔が見える範囲の医師や薬剤師のコミュニティ、中核病院を中心とした地域単位といったさまざまな単位が存在している。病院やクリニックで主に使用する医薬品を地域共通で採用し、薬局がそれらを購入し、それ以外の処方薬は別途対応する、というものである。院内フォーミュラリーのメリットに加え、入退院があっても同じ薬剤が使われるため、フォローがしやすいというメリットがあり、経済効果は地域フォーミュラリーの方が大きい。
健保組合側からは、「フォーミュラリーの推進で後発医薬品の普及につながり、生活習慣病の対象薬剤だけで数千億円単位で薬剤の適正化につながる」という経済的メリットを強調する意見がでているが、医師側からは「患者ファーストの観点で、どの薬剤を使用するのが良いかを考え、さらに無駄のないような投薬をすることが副次的に収支の改善に寄与する」といった声もある。
いずれにしろフォーミュラリー導入は、国レベルにおいても医療費削減という課題に対して大きな影響を持つものであることは間違いなく、今後ますます議論が活発になっていくことが予想される。
(広報部・太田美つ子)
■群馬保険医新聞2019年9月号