【論壇】コロナ禍におけるフレイル

【2022. 3月 15日】

 2020年に突如として起こった新型コロナウイルス感染症(COVID―19)。瞬く間に全世界に広まり、未だ終息の気配がみられぬまま今日に至っている。日々刻々ともたらされる感染状況を鑑みるに、以前のような日常生活を取り戻すことが容易ではないことは明らかである。

 この新型コロナウイルスは我々にマスクの着用、ソーシャルディスタンスなど新しい生活様式(ニューノーマル)をもたらし、また個々の感染対策、行動制限と併せて、医療体制の整備も進められている。

 但し、高齢者の視点でこの新型コロナウイルス感染症をみると、直接的医療とは違う側面がみえてくる。自粛生活の長期化による活動性の低下(生活の不活発)と社会性の低下である。更にこれらの事象を基盤とし、「フレイル」が進んでいる点である。

 新型コロナウイルス感染症による自粛生活により体を動かすことが少なくなり、筋肉の萎縮が進行して「フレイル」が起こり始める。閉塞感のある生活は社会とのつながりを乏しくし、メンタルヘルスへの影響も計り知れない。

 フレイルとは2014年に日本老年医学会により提唱され、健康な状態と要介護状態の中間の段階を指す。フレイルは身体的フレイル、精神・心理的フレイル及び社会的フレイルの3種類に分けられる。

  • 身体的フレイル…運動器の障害による運動機能低下(ロコモティブシンドローム)、筋力の低下(サルコペニア)更に栄養素の不足などが該当する。
  • 精神・心理的フレイル…うつ状態や軽度認知症の状態があたり、意欲の低下、他との交流の減少も状態を悪化させるといわれている。
  • 社会的フレイル…独居など加齢に伴い社会とのつながりが希薄化することを指す。

 高齢者の新型コロナウイルス感染症による重症化は、連日種々の媒体を通じて広く国民へ報道されているが、こうした感染に対する情報の氾濫や自粛生活の長期化などで、多くの高齢者が低活動かつ不活発な生活となっている。これによりサルコペニアの進行によるフレイルの状態悪化、移動能力低下をもたらし、認知機能、免疫力の低下などの負のサイクルをもたらす可能性がある。

 フレイルの対策としては、食・口腔機能面、身体活動、社会参加の3つの柱を軸に日常生活に継続して取り入れることが必要といわれている。高齢者に対し正しい情報に基づく行動や意識の変容をもたらすことで現状を「正しく恐れる」姿勢を促し、身体機能、日々の生活、地域のコミュニティの改善が必要ではないだろうか。

 所謂「コロナ禍」以前の2019年にわが国は2040年までに男女ともに健康寿命の3年以上の延伸を掲げた「健康寿命延伸プラン」を策定した。その取り組みの一つに「介護予防・フレイル対策・認知症予防」があり、「通いの場」の拡充に数値目標を設定している。

 「通いの場」はボランティア、趣味の活動などの社会参加のみならず、運動機能の向上、低栄養の予防、口腔機能の向上、認知機能の低下予防など多岐にわたる。

 厚生労働省の統計によると「通いの場」の数と参加率は、2013年度4・7%であったが、2019年度には12万8768ヵ所で6・7%と増加傾向にあった。

 しかし、2020年4月からの緊急事態宣言を受け、約9割が活動自粛となった。また、高齢者の心身の状態についての調査においてもコロナ前の2019年度とコロナ禍の2020年度では、外出機会の減少、うつの項目の該当者の増加がみられたとのことである。こうした状況を踏まえ、国ではWEBサイトを開設しオンラインの活用を進めている。

 依然厳しい感染状態が国内を覆っているが、感染予防のみを殊更協調するだけではなく、生活の不活発、人と人とのコミュニケーションの低下を防ぐことも重要であろう。

(会員拡大部 瀧川 正志)

■群馬保険医新聞2022年3月15日号