群馬県保険医協会 会長 小澤 聖史

 昨年の総会にて群馬県保険医協会の会長に就任してからはやくも1年が経過しました。現在も私たちの周りには多くの医療問題が山積みになっています。

 2020年に日本へ寄港したダイヤモンド・プリンセス号内での新型コロナウイルス感染者の国内最初の発生から3年が経ち、政府は今年5月8日に新型コロナウイルスの『感染症法』上の位置づけを2類相当から5類に引き下げました。引き下げにより、社会的なルールは変更されますが、新型コロナウイルスの性質や医療機関での感染対策の基本など、発熱患者への対応が変わるわけではありません。国民のコロナウイルスへの対策意識が低くなった分、かえって医療機関の対応は困難になっている気がします。老健施設や病院内での感染クラスターは現在も発生しており、日本医師会も「すでに第9波は始まっている」、「高齢者や持病のある人への感染対策が重要」と引き続き警戒を呼び掛けています。

 また、昨年2月に始まったウクライナとロシアの戦争は、短期の決着を望む世界の人々の意に反して未だ決着がついていません。この戦争の長期化が全世界のみならず、日本でもエネルギー資源、食品、生活用品の高騰につながっています。中でも電気代の高騰は医療機関にも大きな影響を及ぼしており、日本医師会による『診療所の光熱費の変動に関する実態調査』では、昨年10〜12月における診療所1施設当たりの電気料金と都市ガス料金は、対前年比130〜150%と大幅に上昇していることを明らかにしています。

 当協会では、昨年度に昭和村が医療機関を対象にエネルギー高騰への助成を行っていたことから、各市町村に医療機関への助成を要請しましたが、どの自治体も県の補助があるため独自で行う予定はないとの返答でした。今後も各自治体へは医療機関の負担を訴え、助成に繋がる運動を続けていきたいと考えています。

 さらに今年4月から始まったオンライン資格確認システムは、施行前から医療機関で不具合が発生しており、当協会が今年5~6月に会員医療機関に行った調査では、約6割の医療機関でトラブルがあったことが報告されています。

 一番の問題は、来年秋から始まるとされている、マイナンバーカードと健康保険証の一体化に伴う保険証の廃止です。最近になってテレビ等で問題が取り上げられるようになり、与党の議員からもマイナンバーカードへの疑問が多く出てきています。もともとマイナンバーカードの取得は任意でしたが、保険証と一体化されてしまえば取得が実質義務化となってしまいます。

 現在はマイナンバーカードを取得しなくても保険診療を受けられるように、資格確認書が発行される事になっています。しかし実際にはその資格確認書も1年ごとに更新が必要であり(7月27日現在)、さらにこの確認書で受診する患者の窓口負担は、マイナ保険証を使用する時より高くなる事も、取得への誘導と考えられます。

 今のままの保険制度で何が問題なのでしょうか。今の保険証に様々な医療情報を紐付けるだけでいいのではないでしょうか。当協会は今後もマイナンバーカードと保険証一体化の義務化には反対していく所存です。

 来年は診療報酬改定の年ですが、診療報酬のほかに介護報酬と障害福祉サービス等報酬の改定も同時に行われます。診療報酬改定においても「DX(デジタルトランスフォーメーション)」を取り入れようという動きがあります。「診療報酬改定DX」と呼ばれており、具体的には以下の4つのテーマが挙げられています。

①共通算定モジュールの開発・運用

②共通算定マスタ・コードの整備と電子点数表の改善

③標準様式のアプリ化とデータ連携

④診療報酬改定施行時期の後ろ倒し等

 マイナンバーカードの時のように、医療機関に負担ばかりが押しつけられないように注視していかなければなりません。

 群馬県保険医協会は、私たち保険医にとって、そして医療を受ける県民・地域住民たちにとって何が本当に必要であるかを冷静に見極め、発言し、行動していきたいと考えています。協会事務員も増員され、協会員へのサービス向上、講演会の開催などに積極的に取り組んでいきます。

 今後とも当協会へのご支援、ご協力をよろしくお願いいたします。

■群馬保険医新聞2023年8月15日