子どもの肥満のミカタ

群馬大学医学部附属病院 小児科講師 大津 義晃

 昨春に当科で行いましたクラウドファンディング〜群大病院思春期ルームプロジェクト〜では,多くの方々から温かいご支援賜りましたことを深く感謝致します。皆様のお気持ちが思春期ルーム"Teens Terrace"として実際に子どもへ繋がるのは今春の予定です。引き続きこのプロジェクトを見守っていただけると幸いです。

 さて、私は群馬大学で子どもの内分泌疾患・糖尿病・先天代謝異常などを主に診療しております。また、群馬県生活習慣病予防対策検討委員会で子どもの肥満対策をしております。この10数年間で「子どもの肥満」は、臨床的にも社会的にも看過できない問題になって参りました。今回は、①なぜ子どもの肥満対策が必要なのか、②群馬県の子どもの状況、③子どもの肥満対応の実際、の3点についてお話しさせていただきます。

①なぜ子どもの肥満対策が必要なのか

 そもそも肥満とは体脂肪が過剰に蓄積した状態(太っている状態)を指す言葉で、病気を意味するものではありません。しかし、肥満に伴って健康を脅かす合併症(耐糖能異常や脂質代謝異常など)がある場合、または合併症になるリスクが高い場合、肥満症と診断され、医学的な介入の対象となります。

 近年、子どもの肥満がマスコミで話題になることが増えていますが、その理由として、平成20年から開始された特定健康診査・特定保健指導によって成人の肥満が注目されていることがあるかもしれません。その一方で、子どもの肥満の問題点が次々と明らかになってきていることも挙げられます。例えば、子どもの肥満を子どものうちに改善させることの重要性を指摘した報告があります(N Engl J Med 2011; 364:1315-1325)。図1は、成人期の冠動脈疾患のリスクと思春期BMI、成人期BMIの関連を示しています。思春期・成人期ともにBMIが高い群(黒の矢頭)において成人期の冠動脈疾患リスクが高いのは当然ですが、次にリスクが高い群は、思春期BMIが高く、成人期BMIは高くない群、つまり思春期に肥満であったが、大人になって減量した群(灰の矢頭)です。大人になってからダイエットしても、冠動脈疾患リスクは手遅れであるということです。

 また、思春期の肥満について、幼児期早期からの体重増加は思春期肥満に繋がるという報告もあります(J Pediatr 2015;166: 309–12)。子どものBMIを出生時から経時的にプロットしてみると、出生から1歳頃までBMIは上昇し、その後低下に転じ、小学校入学頃から再び上昇するのが一般的です。再び上昇に転じる時期には個人差があるものの、3歳未満の場合は、学童期以降のBMIが高く、思春期肥満に繋がります。

 この2つの報告だけでも、幼児期の肥満が思春期肥満に繋がり、さらに成人期の冠動脈疾患に繋がることが示唆されます。また、肥満のある子どもは、身体の問題以外に、自己肯定感の低下や不登校、いじめの対象になりやすいという問題もあります。よって、子どもの肥満は子どものうちから(それも小さい頃から)対応していくことが重要であると言えるのです。

②群馬県の子どもの状況

 本邦における肥満の子どもは、高度経済成長と共に増加してきました。平成20年頃から若干減少しているものの、それでも子どもの10人に1人は肥満(体重が標準体重の1.2倍以上)で、100人に1人は高度肥満(体重が標準体重の1.5倍以上)です。残念なことに群馬県は全国平均と比べて、肥満の子ども割合が多いのが現状です。群馬県では、県医師会と教育委員会とで高度肥満児対策(平成30年度開始)をはじめとする事業を展開しており、すべての児童生徒への健康教育、学校での肥満指導、高度肥満児の受診などを進めています。ところがコロナ禍によってこれらの対策が十分実施できず、肥満傾向児は減っていません(この期間に全国で肥満傾向児が増加しています)。令和6年度に県医師会と教育委員会の「高度肥満児対策の手引き」(群馬県医師会HP https://www.gunma.med.or.jp/PDF/Kodo_himan_manual_201711.pdf)の改訂が検討されているとのことです。ポストコロナの子ども肥満対策を考える時期だと思います。

③子どもの肥満対応の実際

 すでに肥満を呈した子どもには、早期に周辺の大人が対応しなければなりません。放っておくと将来の生活習慣病に繋がるからです。しかしながら前述のように、肥満のある子どもは、自己肯定感の低い傾向がありますので、威圧的な、上から目線の指導ではうまくいくはずがありません。まずは肥満のある子どもの味方(ミカタ)になるのが、肥満の見方(ミカタ)の第一歩です。肥満度に応じて若干の違いはありますが、まだ身長の伸びる時期の子どもにおいては、体重を減少させること(ダイエット)よりも、体重を増やさない、維持することを最初の目標にします。体重が増えなければ、身長が伸びることにより肥満度は低下し、正常体型になっていくからです。

 なかなか目標が達成できない場合は、生活習慣を見直し、食事と運動、睡眠の改善指導を子どもとその家族に行います。食事は、ほぼ全ての例で過食ですので、まず間食を減らすことから開始していきます。運動は週に半分以上の日に、額に汗かく運動を30分以上行いたいところです。運動は色々な面でとても良いことですが、実際に運動だけでダイエットするのは至難です。「沢山食べても運動すればよい」と思う方もいますが、30~40分ジョギングしてもお饅頭を1個間食してしまうと、残念ながらダイエットにはなりません。睡眠については、規則正しい生活習慣の基本です。いわゆる時間制限ダイエット(摂食できる時間を1日のうち8時間程度に限定するダイエット方法)が有効であるのは、飢餓時間が長いことではなく、摂食時間が短いと摂取熱量が減るからという成人の報告もあります(JAMA Intern Med. 2022;182:953-962)。夜更かしは夜食の摂取に繋がり摂取熱量が増えてしまうという事実は、大人も気にしなければなりません。これら対応方法の詳細は「高度肥満児対策の手引き」などをご参照ください。

 このような指導をクリニックや学校、保健センターで繰り返すことになりますが、一度にすべてを達成することは困難ですので、子どもとその家族ができることから取り組むようにします。とはいえ、発達障がいのある肥満の子どももいますし、複雑な事情のある家庭もあります。ですので、一箇所のクリニックや学校、保健センターだけで肥満対策を完結しようとするのではなく、その子どもと家族に関わる多職種が連携する必要があるのです。

おわりに

 寄稿するにあたり、私自身が改めて子どもの肥満対策の重要性を痛感している所存です。幼少期からの肥満対策が将来の肥満や生活習慣病の予防になりますので、群馬県においても、3歳児検診でこれらを見据えた指導を行うことになってほしいと願っています。子どもの肥満についてお困りの点などございましたら、是非ともご連絡ください。一緒にミカタを考えさせてください。今後ともご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い致します。

図1 年代別BMIと冠動脈疾患のリスク