日本はこれから超高齢社会に突入する。世界のどの国もこれまで経験したことがない。医療や介護の需要が激増することが目に見えている。公的年金財政の悪化も避けられず、 それに対処するために年金支給開始年齢が引き上げられる事態も、大いにありうる。仮にそうなれば、老後資金の準備が十分でないために生活保護を申請する高齢者世帯が急増するだろう。
こうした事態への対処が急務であるにもかかわらず、ほとんど何の手当ても準備されていない。生産年齢人口が増えないので、労働人口は増えない。そのため日本経済の生産性はさらに低下する。医療や介護の分野での人手不足はますます深刻化し、 外国人労働力に頼ろうとしても、日本の国際的な地位が低下しているので、人材を集めることが出来ない。それだけでなく、日本の若い人々が高賃金を求めて海外に流失する。2022年以降の急激な円安の中で、こうした動きはすでに現実化している。そのため、要介護状態になってもケアを受けられない高齢者が続出するだろう。道路や橋などの社会資本を更新するための設備投資が十分に行われないので、社会資本の劣化が進み、災害が起きた場合の被害が大きくなる。こうした状況の中で、不満が鬱積して凶悪事件が多発し、治安が悪化する危険もある。その兆候はすでに現れているようにも思われる。
世界経済が大きく発展する中で、日本は古い産業構造から脱却できず、国際的な地位が低下している。様々な国際ランキングで、日本の位置は最下位から数えたほうが早くなってしまった。そして状況は悪化の一途をたどっている。2000年の沖縄サミット時にG8の中でもっとも豊かな国だった日本は、2023年の広島サミットでは、最も貧しい国になってしまった。日本企業の生産性が低下するため、日本の対外収支は悪化し、 貿易収支は恒常的な赤字になる可能性が高い。それだけではなく、経常収支も赤字化する危険があり、 そうなれば対外資産の取り崩しを余儀なくされる。こうした事態が将来起こると予測されれば、それが現実にならなくても、金融市場は反応してしまう可能性がある。経常収支が赤字化するのは10年先のことかもしれないが、それを予測して、今金融市場でキャピタルフライト(資本逃避)が生じてもおかしくない。しかも一旦始まったキャピタルフライトが加速してしまうこともある。すると金利が急上昇し、株価も不動産価格も暴落する。そうなったときどうすればよいのか。蓄えがなくなって生活資金が尽きれば、生活保護を申請するしかない。国も生き残るためにIMFに緊急融資を求めるしかない。しかし経済規模の大きい日本に対してIMFといえども十分な措置ができるかどうかわからない。日本の衰退を加速させる原因は、経済政策の誤りだ。日本の金利は日本銀行の低金利政策によって、非常に低い水準に抑えられてきた。それによって円安が進み、国内の物価が上昇し、国民生活が圧迫されてきたにもかかわらず、 日本銀行は円安を放置してきた。長く続いた低金利政策の結果、日本企業は低金利でないと生き延びることができない 状態になってしまった。そして生産性が低下し、国際競争力を失った。日本の異常な低金利が正常化される見通しは立っていない。企業は、存続のため政府に補助金を求めることしか考えていないだろう。こうした深刻な問題があるにも関わらず、政治家は次の選挙のことしか頭になく、 人々の目先の歓心を買うための政策しか行わない。産業政策と称するものの実態は特定企業への補助金だ。そして対象となる産業は衰退産業だ。こうした補助金によって産業が復活するはずはない。一方年金、医療、介護などの制度改革についての論議は、ほとんど行われていない。岸田内閣は少子化対策と称して、効果の疑わしい給付金を増加させようとしているが、 それに対する財源を準備しているわけではない。
政治家が特定の集団の利害に大きく影響されてきたものの、長期的な視野にたっての政策も行われなかった。この10年間程度の大きな問題はそうしたことがほとんど考慮されなくなってしまったことだ。このままでは日本は沈没する。
これを打開するために は新しい技術、DX、生成AIなどを積極的に導入していくことが必要だ。何よりも重要なのは国民がこうした状況に声を上げていくことだ。選挙で国民のための政治を取り戻すしかない。
(経営対策部長 深井尚武)