片頭痛予防に対する抗CGRP抗体について

ふるた内科脳神経内科クリニック院長 古田 夏海

 日本における片頭痛の推計患者数は約840万人、女性は男性の3.6倍多く、20~40代の働き盛りの世代で多い疾患となっています。

 片頭痛が起きる原因として、三叉神経から放出された神経ペプチドであるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin gene-related peptide; CGRP)がCGRP受容体に結合することで、血管が過度に拡張して炎症が波及し、片頭痛発作が起こるという説が有力です。

 片頭痛の予防にはロメリジン、バルプロ酸、プロプラノロール、アミトリプチリン、ベラパミルなどが用いられていますが、効果を得られない患者さんも少なくありませんでした。

 2021年本邦では、CGRP抗体(=CGRPと結合することにより、痛みを起こすシグナルを抑え、CGRP受容体との結合を阻害する)ガルカネズマブ(商品名:エムガルティ)、フレマネズマブ(商品名:アジョビ)、および抗CGRP受容体抗体エレヌマブ(商品名:アイモビーグ皮下注)が片頭痛予防薬として相次いで承認されました。CGRPを標的とした抗体医薬品が登場したことにより、片頭痛の治療選択肢が広がりました。8年ぶりに改訂された「頭痛の診療ガイドライン 2021」でも予防薬としてGroup 1(有効)に位置付けられ、強い推奨・エビデンスの確実性Aとされています。

 月に一度の投与(ガルカネズマブは月に一度、フレマネズマブは4週間に一度あるいは12週間に一度、エレヌマブは4週間に一度)で、投与から1週間ほどで改善がみられる患者さんが多いです。当初は自己注射が認められておらず、外来受診時のみの投与となっていましたが、2022年5月1日からガルカネズマブの在宅自己注射投与が可能となりました。

 主な副作用として、注射部位反応、便秘、傾眠などが報告されています。

 国内外のガイドラインでは、抗体による片頭痛予防治療が6~12ヶ月成功した後に中止を含めた治療の妥当性を再評価することが推奨されています。

 抗体投与中止と再投与を検討した研究では、抗CGRP抗体の3ヶ月間の投与中止により、片頭痛の悪化が進行しましたが、再投与により速やかに回復しました。治療前にQOL指標が良好であった患者の4分の1は、治療中止中も効果が持続し、再治療を必要としなかったことが報告されています。(Iannone LF, et al. Eur J Neurol. 2022 ;29: 1505-1513.)

 各製剤の臨床試験成績については以下の通りです。

①ガルカネズマブ

 反復性片頭痛患者(月間の頭痛日数が15日未満かつそのうち片頭痛日数が4日以上)を対象にした国内臨床試験であるCGAN試験では、ガルカネズマブは月1回、6ヶ月間にわたり皮下投与されました。主要評価項目は1ヶ月あたりの平均片頭痛日数のベースラインからの変化(6ヶ月平均)に設定されました。

 結果は、プラセボ投与群では0.6日の減少が認められたのに対して、120 mg 投与群(初回投与時のみローディングドーズとして240 mg)では 3.6日の減少が認められ、有意差が確認されました。また、投与初月から3.8日の減少を認め、以降6ヶ月目までいずれの月においても両群間に有意差が認められました。また、プラセボ群と比較して有意差をもって、投与1週間目からの頭痛日数減少を認めています。

 ガルカネズマブ120mg群での副作用発現率は29.6%(プラセボは7.4%)であり、主な副作用は注射部位反応でした。死亡例はみられませんでした。(Sakai F, et al. Cephalagia Reports 2020; 3 :1-10.)

②フレマネズマブ

 反復性片頭痛患者を対象としたプラセボ対照二重盲検試験(日韓国際共同第Ⅱb/Ⅲ相試験)では、二重盲検期間は 12 週間に設定し、フレマネズマブ225 mgを4週間毎の投与、675 mgの単回投与、プラセボ投与の三つの群で比較が行われました。主要評価項目は、初回投与後の12週間での1ヶ月あたりの平均片頭痛日数のベースラインからの変化に設定されました。

 結果は、プラセボ投与群では1.02日の片頭痛日数の減少が認められたのに対して、12週間に一度の投与群では4.02日の減少、4週間に一度の投与群では4.00日の減少が認められました。両治療群に同等の治療効果があったことで、プラセボとの有意差が確認されました。

 さらに片頭痛日数のベースラインからの平均変化量の有意な減少は、フレマネズマブ投与両群で初回投与後1週目から認められました。

 副作用発現率はフレマネズマブ12週間に一度の投与群で31.4%、4週間に一度の投与群で26.4%、プラセボ群で23.9%であり、主な副作用はいずれも注射部位反応でした。重篤な有害事象及び死亡例は認めませんでした。(Sakai F, et al. Headache 2021; 61 :1092-1101.)

③エレヌマブ

 反復性片頭痛患者および慢性片頭痛患者(月間の頭痛日数が15日以上かつそのうち片頭痛日数が8日以上)を対象とした、プラセボ対照二重盲検試験(国内第Ⅲ相試験)では、二重盲検期間は 24 週間、二重盲検後28週間の非盲検投与期、8週間の安全性追跡調査期を設定し、エレヌマブ70 mgを4週間毎の投与およびプラセボ投与の2つの群で比較が行われました。主要評価項目は、投与開始から4・5・6ヶ月目における、平均月間片頭痛日数のベースラインからの変化に設定されました。

 結果は、プラセボ投与群では1.98日の片頭痛日数の減少が認められたのに対して、エレヌマブ70mg投与群では3.60日の減少と、プラセボとの有意差が確認されました。

 さらに片頭痛日数のベースラインからの平均変化量の有意な減少は、投与後1ヶ月目から認められました。

 また、投与開始から4、5、6ヶ月目における平均月間片頭痛日数が50%以上減少した患者割合は、プラセボ投与群では16.8%であったのに対し、エレヌマブ70mg投与群では36.1%とプラセボと比べて有意に高率でした。

 副作用発現率は、エレヌマブ70mg投与群で7.7%、プラセボ群で3.8%でした。主な副作用は注射部位反応(注射部位紅斑)で、投与中止に至った有害事象及び死亡例は認めませんでした。(Takeshima T, et al. Headache 2021; 61 : 927-935.)