18歳成人について

 今年の4月より、民法改正によって成人年齢が20歳から18歳に引き下げられました。1876年(明治9年)太政官布告で定められてから、146年ぶりの成人年齢の変更となりました。なぜ引き下げられたのでしょうか。三つの理由をあげたいと思います。

 一つ目は、若者の社会参加を促進する目的で始まった憲法改正の手続きでした。2007年に国民投票法が制定され、憲法改正の賛否を問う国民投票にあたっては、18歳以上の国民に投票権が与えられることになりました。これにより、2016年には公職選挙法が改正され、選挙権年齢が18歳以上に拡大されました。これに伴い、他の権利や義務が発生する民法の成人年齢の引き下げが行われました。

 二つ目は、少年による凶悪事件が発生するたびに起こる、少年法への批判からでした。成人は、罪を犯すと刑事事件として起訴されますが、少年は保護・更生させることが大事と考えられてきました。しかし、民法改正に伴い、少年法も変わりました。法律の対象年齢は従来の20歳未満のままですが、18歳と19歳の少年は「特定少年」と位置付け、検察官に送られる罪の幅を拡大し、成人の犯罪の扱いに近付けました。起訴されれば、実名や顔写真など本人を特定できる報道も可能となりました。

 三つ目は、男女の結婚年齢の統一です。明治時代に民法で男性は17歳以上、女性は15歳以上と定められ、戦後の民法改正で男性18歳以上、女性16歳以上と引き上げられました。1996年には法制審議会より結婚年齢の男女統一の答申があり、さらに2003年、国連の女子差別撤廃委員会から「差別的」として改正するように勧告されるなど様々な議論がなされ、ようやく2022年4月より民法の成人年齢と結婚年齢が18歳に統一され男女差が解消されました。

 さて、海外での成人年齢はどうなっているのでしょうか。国や地域によって18から21歳とばらつきがあり、中には14歳とかなり低い年齢を基準にしている国もあります。欧米の多くの成人年齢は21歳でしたが、1970年代にベトナム戦争への軍隊派兵や徴兵制度の関係から、18歳に引き下げられました。日本でも、明治の近代化とともに、近代国家制度である学校と軍隊が成人年齢を規定しました。明治6年に制定された徴兵令で満20歳が徴兵年齢とされた為、第2次世界大戦以前の日本の庶民が成人を意識するのは徴兵検査であったともいわれます。ロシアとウクライナが戦争を起こしている現在、複雑な心境になります。

 成人とは何でしょうか。成年または成人年齢は、法的には、単独で法律行為が行えるようになる年齢のことです。民法が定めている成人年齢は、「一人で契約をすることができる年齢」であり、「父母の親権に服さなくなる年齢」という意味があります。成年に達すると、親の同意を得なくても、自分の意思で様々な契約ができるようになります。

 一般社会においては、成人とは身体的、精神的に十分に成熟している年齢の人間を指すことが多いです。戦前は身体の成熟と社会での成人の認知はほぼ一致していました。しかし戦後は経済成長とともに高学歴化が進み、現在成人年齢とされる20歳では約7割の若者は在学していて、経済的には自立していません。社会で一人前と認められるのも、結婚をする年齢も30歳前後となってきています。一方、身体的な成熟は早くなっているので、子どもから大人への移行期である青年期が長くなりました。また、「成人」も多様化しています。経済成長が止まり、終身雇用制度が崩れ社会の価値観が多様になっています。学校教育も多様な「個性」を尊重し、伸ばす「支援」が求められています。

 憲法改正のための手続きを定める法律に端を発して18歳成人の議論がされました。

 既に経済的に自立した若者は、18歳成人は親を煩わすことなく、会社等の運営ができ喜ばしいことのようです。しかし、心配なこともあります。親の知らないうちに高校生が結婚することも可能ですし、社会経験が少ない若者が高額な契約をさせられることもあります。若者を消費者被害などからどう守っていくか。本人たちの自覚に加え、家庭や学校の支えも大事なのではないでしょうか。今回の18歳成人は成人になる若者だけでなく、既に成人になっているものも、社会や政治に関心を向けるきっかけになったと思います。

(文化部長 北條みどり)