母体血を用いた出生前遺伝学的検査(NIPT)

 母体血漿中には胎児由来のcell-free DNAが含まれており「NIPT(Non-Invasive Prenatal genetic Testing)」 はこれらを解析することで胎児の染色体異常を検出する、出生前遺伝学的検査のひとつ である。ダウン症候群(21トリソミー)や、エドワーズ症候群(18トリソミー)、パトウ症候群 (13トリソミー)といった染色体の数的異常を高い感度と特異度で検出することができ、妊娠初期(10週)から採血のみで侵襲なく検査できる。一方で偽陽性や偽陰性も一定頻度でみられる非確定検査であり、診断を確定させるためには妊娠15週以降での羊水検査が必要となるが、羊水検査は侵襲的検査であり、流産率が0.3%あることも注意すべきである。

 米国では2011年にNIPTを開始し、日本では2013年より全国の日本産科婦人科学会認定施設において染色体疾患のハイリスク妊婦を対象とした臨床研究として開始された。2019年までの6年間に72,395件の検査が行われ、受検者の平均年齢は38歳、陽性率1.8%、陽性的中率90.0%だった。特に21トリソミーにおいての陽性的中率は96.5%と高い結果であった。

 妊婦がNIPTを希望もしくは検討している場合には、事前に遺伝カウンセリングを受けることが重要である。「陰性の結果を確認して安心したい」、「義母から検査するよう強く勧められた」など、NIPTを検討するまでの過程は様々であるため、先天性疾患の可能性や出生前検査に対する問題点について理解したうえで、自律的な自己決定ができるよう支援が必要となる。

 また、偏見によるイメージが先行して不安が大きくなるケースもある。児の先天性疾患は3~5%でみられるが、その中で染色体異常が関連するのは4分の1である。母体年齢とともに罹患率は上昇するものの、もっとも多いダウン症候群でも600~800出生に1人程度である。

 21トリソミー受精卵全体の約80%は流産・死産となる。その内の多くは妊娠16週までに流産・死産となるが、妊娠16週以降も生存し、羊水検査でダウン症候群と診断された胎児も20~30%は流産・死産となっている。そのような中でも出生した児の平均寿命は50~60歳とされ、学校の卒業や就労はともに8割以上であり、9割以上が自身の人生に幸せを感じているとの調査報告もあるため、こうした情報も提供していかなければならない。

 だが、検査についての適切な情報提供がなされないままNIPTを実施する無認定施設が急増し、妊婦に混乱と不安を引き起こしていることが問題となっている。群馬県にはこれまで認定施設が無かったことから、NIPTを希望する妊婦は県内の無認定施設で検査を受けるか、県外の認定施設まで出向くしかなかった。そうした中で、昨年より群馬大学医学部附属病院と群馬県立小児医療センターを基幹施設とし、横田マタニティーホスピタルなど複数の連携施設によるNIPTの実施時における新たな体制がスタートした。NIPTの実施とその前後での遺伝カウンセリングを連携施設で行い、陽性の場合には基幹施設で専門的なカウンセリングを受けられるようになった。現在は35歳未満のリスク因子のない妊婦も、希望すればNIPTを受けることができる。

 多様性の尊重が社会全体で叫ばれて久しいが、この分野においては簡単なことではない。NIPTは『最適な分娩方法と療育環境を検討すること』を目的として始まったが、染色体異常が認められた妊婦の多くが中絶を選択している。諸外国の動向からも今後NIPTのニーズはより高まっていくと予想される。米国では染色体の数的異常だけでなく、染色体の微小欠失や重複といった変化へと検査対象が拡大しており、こうした中で偶発的に胎児の親が持つ染色体疾患が明らかとなる可能性もあることから、遺伝カウンセリングの重要性がさらに増していくだろう。

(環境平和部長 白石知己)